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第41話

式典に参加しました(本番編)
皆さん来ました。ついに来ましたこの日が。

そう、今日は僕の6歳の誕生日であり、『式典』を執り行う日である。

その為に僕は朝早く起こされて、アイシャドウやら口紅やら大人のやりそうな化粧を施された。

更にいつものきらびやかなドレスではなく、白い布地に金の豪華な刺繍が施された、フード付きの『式典服』と呼ばれる神聖な着物を着せられる。

脇下辺りまである髪を複雑に束ねて最後に崩れているところはないかチェックされれば、その後は住み慣れた皇女宮から放り出され屈強な紋章の入った豪華な馬車にぶち込まれて教会へ向かう。

僕は初めて見る外に少しワクワクとした気持ちを覚えた。そりゃそうだろう。生後七ヶ月の時の誘拐以来皇女宮の敷地外なんて来たことないのだから。

最初は馬車から見える町並み、こちらの馬車を見かけて手を振り、拍手をし、歓声をあげる民衆など、見慣れないものがいっぱいあって自分が転生しているという事実を突きつけられ、中世的なこの国になんとも言えない違和感を覚えながらも余裕であちこち眺めていた。

だが、ふと前を見て他の建物よりあからさまに豪華なその建物を見て一気に緊張が僕を包む。

『式典』ではやらなければならない、覚えておかなくてはならないことがたくさんある。

この前レーナに叩き込まれた『神への誓い』然り、祭壇に上がるまでの行動然り。

前世では生憎無宗教派だったためそういうことに慣れていない僕に無理矢理詰め込まれるそれは、少し演劇の練習をしているようにも思えた。

だがこれは演劇ではない。

演劇でもそうだが、本番では決して失敗できない。

それに僕は皇女なのだ。なおさら期待が高まっている。

まだ幼稚園などで行われる幼稚な演劇などで少し失敗する程度なら、他の人たちも『まぁ子供だからな』で済ませられただろう。

たが僕にはそれができない。完璧でいなくてはならない。

僕の緊張を感じ取ったのか、僕と向かい合わせに座っていたレーナが僕の頭に手を乗せ、「大丈夫ですよ、きっと上手く行きます。」と励ましのような言葉をかけた。

もしそれがこちらの事情も知らない無責任で無関係な人間から発せられた言葉であれば、僕も「お前に何がわかる」と反論してしまっていただろう。

でもレーナは違う。レーナは僕に重くのしかかる皇女としての重圧や苦労を全て知った上で、何かの確信を持ってそう言った。

他のやつが言うような、無責任な励ましではないのだ。

絶対、そう思わせるほどの自信があった。

僕が失敗してしまえばレーナの地位にも関わるというのに。

──レーナのその言葉は、僕の緊張を解くのに十分なものだった。
レーナ
レーナ
──さぁ、つきました。ここです。
レーナが先程とは違う、覚悟を決めたような硬い声音で僕に教会に到着したことを知らせる。
教会はよくゲームや漫画で見るのとおおよそ似たような形状をしている。

全体が白と赤で彩られており、真ん中の一際高い部分のてっぺんには金色の十字架と天使のようなものを模した像がある。更にその下は少し内側に窪んでおり、窪んだ部分に収まるようにして三体の神像が祀られている。

傍目から見てもすぐに分かるようなその建物の中から、一人の老人が出てくる。

僕よりも豪華な装いをしたその人は、恭しく僕らを祭壇へ案内する。おそらく司祭様とかそこら辺の凄い人だろう。

そこから道案内してくれた老人が祭壇へ上がり、分厚い本を開いて祭壇に置かれた机のような石に置く。

小さい声ながらもその神へ向ける言葉は透き通っており、ゴニョゴニョとした感じは全く感じ取られず、言うなればハキハキと言った方が表現としては合っているだろう。

老人の十分を優に超える語りが終わる頃、ついに僕の手番だ。

ずっと立ちっぱなしだったからか、僕の足が微かに震える。

ふと横を見て、同じく『式典服』にいつの間にか着替えているレーナに視線を合わせる。

レーナはこちらを見て優しく微笑んだ。何でだろうかな。その笑顔を見た瞬間、僕なら何でもできると錯覚してしまうほどの自信が溢れてきた。

僕はしっかりとした足取りで老人と入れ違いになるよう祭壇へ上がる。

そこで跪き、手を組んで指示を待つ。

指示と言っても、僕の目印となるのは先程老人が祭壇に置いた本だけだ。

その本は最初に開かれたときと同じページでそこに在る。

──ふいに、本のページが数枚、風も吹いていないのに勢い良くめくられる。

それを合図として、僕の後に祭壇に上がってきた老人よりも若い、30代ほどの男性が神へ祈りの言葉を捧げる。

「──ですので、私の左におります幼気な少女の言葉をどうか聞いていただきたいと願います。」

男性は1分ほど話し続けたあと、少し僕の方を見て話すように促した。

やっと、時が来た。この時が。

僕はそれまでずっと頭の中で反芻し続けていた神への言葉を、跪いたまま呟く。
オーネ(オルガリネ)
オーネ(オルガリネ)
──神々のいます『聖地』へ今一度この声を伝えて頂きたく私、オルガリネ・シューニ・シャンドールがここへ参りました。六年前生を享けた私がこの歳まで生き延びられたことをここに報告いたします。どうかこれからもその光を湛える双眸にて私の成長を見守っていただけますようお願い存じ上げます。
ほんの数日前まで長い、長いと駄々をこねながら暗唱していた言葉が、やけにスラスラと口から出ていく。

周りの人間は僕が言い淀むことなく全て言い切ったことに少し驚いていたようだが、そんなもの僕は知らない。

僕の頭にあるのはただ一つ。「失敗しないようにする」ただそれだけだ。
──ふと、一瞬周りの音も、空気も、時間も。全てが止まった。

驚いて少し俯き気味の顔をあげて目を一杯に開く僕の前に見えた、3つの影。

祭壇から発せられる光に目を細めながら、逆光で顔の見えない人の形をした影たちが少し微笑んだのが分かった。
もう一度瞬きをする頃にはもう周りは戻っていて、先ほどと同じ空気が、音が、全身を撫でる。

さっき上を見上げて目を開いていた僕自身も何故かさっきと同じ、俯き目を閉じる体勢に戻っていることに少し驚くが、あまりに一瞬なその出来事は僕が幻覚と思っても問題ないほどに現実離れしている。

一瞬首を傾げるも、すぐに自分のやるべき事を思い出し、礼節通りにゆっくり立ち上がり頭を下げ、そのまま男性と共に祭壇を降りる。
その後も『式典』は続いたが、僕は先程のことが緊張のあまり見た幻覚だ、と思いつつずっと頭から離すことが出来なかった。

幸いその後は他の人たちが順に喋っていって、僕は全てが終わったあと戻るだけだったので物思いに耽っていても特に怪しまれることなく『式典』を終えることができた。



──僕の前に現れたあの影たち。あれは本当に幻覚だったの?