僕が第一皇女と会ってからかなり月日が経った。
僕は生後六ヶ月になり、少し歯が生えてきた。
もう手足もかなり動くようになったし、寝返りにも慣れた。
…となったら…
おすわりの練習だ!
おすわりができれば色々とできることも増えるだろう。
メイドたちの声援が悪化しないかは気になるが、そんなもので僕の成長を阻害されたくはない。
まずは腹筋かな。
僕は足を45°程に曲げ、両手を頭の後ろで組む。
メイドたちが僕の体勢を見て少々困惑しているようだが、どうでもいい。
僕はいち早く大きくなって、自由にこの国を見たいんだ。
そうして僕は、腹の奥に力を込め、全力で身体を起き上がらせ…ようとはしたが、流石に初挑戦では身体は少し浮くだけだ。
…なんだろう、寝返りのときと同じことになる気がする。
というか今更なんだけど。普通赤ちゃんがおすわりを習得するために腹筋などするだろうか?
僕も赤ちゃんがやってることと同じ様にすれば、いずれおすわりも出来るだろう。
…だが、問題がある。
僕は赤ちゃんがどのようにしておすわりを習得するのかを知らない。
いやだってさ?
普通の高校生が赤ちゃんはどうやっておすわりを習得するかなんて知る訳がないだろ?
年の離れた弟や妹がいたり赤ちゃんを世話したりしてきた人なら知ってるかもしれないけど!
生憎僕はひとりっ子だし周りに赤ちゃんの存在もなかった。
強いて言えば僕の友人に年の離れた妹を共働きの両親の代わりに世話している奴が居たけども!
そいつは育児について特に自分から語ることは無かったし、僕も育児については聞かなかった。
…はぁ…
これはコツコツ努力するしかなさそう…
──数時間後──
…今度は体に勢いをつけて一気に起き上がってみようか。
こてん。
僕は一気に起き上がろうとしたが、いまいち勢いが足りなかったのかすぐに後ろに倒れてしまった。
くそぉ…これも無理か…
今度はどうしようか。
ただのおすわりがここまで大変なのか…
寝返りが成功したから今回も余裕だと思ったんだが。
…そうだな。
今度はベビーベッドの柱を掴んで起き上がってみようか。
メイドたちはこっちの事情も知らずに「皇女様かわい〜」だとか抜かして突っ立ったままだし。
メイドたちに心の中で文句を言いながらも、僕はベビーベッドの柱の部分を右手でしっかり掴み、ちょうど45°辺りまで起き上がったところに空いた左手で床をついた。
すてん。
…妙だな。景色がいつもより高くから見える。
僕は恐る恐る自分の足の方を見てみる。
……………
おすわり出来てる!
嘘だろここに来てやっとできたのか!
待ってこれは夢じゃないよな。夢だったら泣くぞ?
うん、メイドたちも騒ぎまくってるしこれは事実だ。
……っはぁ〜!
僕って天才だわ
ほんと僕って凄いよね。赤ちゃんなのにこの世の言葉分かるし、転生してるし。
僕が精一杯自画自賛しているうちに、メイドがまたレーナさんを呼んできたようだ。
今日はどんなおもちゃを貰えるのかな〜
悩む素振りを見せつつレーナさんが懐から取り出したものは、中からマラカスのような音がする取っ手のついた筒だった。
レーナさんはそれを左右に振り、笑顔で僕に渡した。
この年でガラガラか…
そのガラガラは花柄で、取っ手は金属のようだ。触ったところ筒を木で作り周りに花柄の色紙を貼ったように見える。
ガラガラガラガラ…
なるほど、音は名称通りの音だ。
ちゃんと「ガラガラ」という音がする。
これはしばらく暇を潰せそうだ。
そういえば初めて寝返りを打ったときに貰ったクマのぬいぐるみ、放っておいたままだったな。
クマと一緒に使うか。
だとすればクマに名前をつけておかないと不便だな。
どうするか…
このクマは首に桃色のリボンをつけている。
桃色…もも…
そうだ!ももちゃんにしよう!
なんだか安直過ぎる気がするが問題はないだろう。
よろしくね、ももちゃん。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。