誰かの苦しそうな呼吸に目が覚めた。
時計を見ると、6時。
寝ぼけながら苦しそうな呼吸の方に目をやると、
一瞬で目が覚めた。
隣ではしげが苦しそうに息をしてて、顔中から汗が流れている。
両手は布団を強く握りしめていて。
慌てて起き上がって、部屋を一目散に出た。
洗面所の方で水の音がしていて、急いで向かう。
洗面所にいたのは、お父さんだった。
パニックで何を言えばいいか分からなかったけど、お父さんはさとってくれたようで慌てて部屋に駆け込んだ。
部屋に入ったころには、望以外みんな目を覚ましていた。
そう声をかけると、しげは少しだけ目を開けてお父さんの手をぎゅっと握った。
お父さんはそう言って、注射を取り出した。
何度も、教わった、注射。
お父さんの手つきは素早くて、不安なんて感じさせへんくて、お父さんの腕は、何年もしげを支えてきた証。
一瞬で注射は終わって、思わず安堵のため息が漏れた。
そう何度も声をかけるお父さんの声に、しげは苦しそうにしながらも眠りについていった。
しげが眠った後も、しばらくお父さんはしげの胸をさすり続けていた。
強い、大きなしげのお父さんの手を見てたら、
自分の手が情けなくなった。
僕は、他のみんなよりも注射の練習では褒められたし、しげのことはよく知ってるし、俺は支えられるって、どこかで自信を持ってて。
でも、いざという時、僕は結局何もできなかった。
しげの背中をさすることさえ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。