ー302号室
病室に入ってきた瞬間警報音が辺りに響き渡る
ー5分後
ー医局
ー藍沢先生が仮眠室の中に消えた後、私は机の引き出しに入れっぱなしだった紗奈ちゃんからの手紙を取り出した
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親愛なる桜井先生へ
桜井先生がこれを読んでいるという事は私はもうこの世界にいないっていう事なんだね。悲しいな〜もっと桜井先生や他の先生といっぱいお喋りしたかった
私がこの手紙を通して桜井先生に伝えたいことは"感謝"です
私の病名は重く今までで何回も主治医が変わってきました。皆さん最初は「絶対に治すよ!」って意気込んでたけど私の病気が進行して心臓移植しか手がなくなったと分かった時、皆さん去っていきました。自分のキャリアに傷をつけたくなかったのかな
病院をたらい回しにされてようやく行き着いたこの翔陽大学付属北部病院、お世辞にも担当医の猪越先生は良い医者とは言えませんでした。お母さんも同じ事思ってたみたい
そんな中私の容態が急変し救命のICUに運ばれました。そこで出会ったのが私が大好きな桜井先生でした
桜井先生と初めて会った時、なぜかこの人なら私の元を去らないのではないかと感じました。桜井先生と話しているとその優しさが伝わって来ました。
桜井先生とは最初私が一番話しやすい恋バナで盛り上がりましたね。誰か気になってる人はいる?と聞いたらいないって答えましたけど多分今なら答えは違っていると思います
桜井先生は猪越先生とは違って空き時間を見つけては私の病室まで足を運んでくれました。救命から心外に戻った後も毎日毎日来てくれました。後でお母さんから聞いたんだけど救命のフロアと心外のフロアはだいぶ距離が遠いらしいですね。桜井先生が時々連れてくる他の先生方とのお喋りも楽しかったな
私がこのノートを手渡した時最初は困惑していて迷惑だったかなって内心ヒヤヒヤしてました、でもちゃんと受け取ってくれて絶対に読むって言ってくれてそれが本当に嬉しかったです。この時私は桜井先生に私の命を託しました
桜井先生に伝えたい事はまだまだあるんだけどお母さんが持ってきてくれた便箋の数がこれで終わりなので続きは直接桜井先生に話します。まずは無事に成仏出来ると良いんだけど・・・
長くなりましたが桜井先生、今まで治療して頂いてありがとうございました。桜井先生と過ごした毎日は私の宝物です。もっと一緒に居たかった。
もしこのことで医者を辞めるとか言っていたら絶対に辞めないで下さいね?私は誰よりも桜井先生は医者に向いていると思います。なにせ、患者の気持ちに寄り添い最期まで一緒にいてくれた先生ですもんね。私の分まで他の患者さんの命を助けてあげて下さい。約束ですからね?
最後に他の先生方にも感謝の気持ちを桜井まゆ先生の方から伝えて下さい。お願いしますね
ではまた逢う日まで、楽しみにしてます。
柏葉紗奈
ふと振り返ると緋山先生が立っていた
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。