第66話

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2022/10/20 09:00
ジョンウ



不安だ

今から起こり出す、全ての出来事が



きっといい変化なはずなのに
その変化でさえも怖い。

それなりに続けてこれた練習生という立ち位置も
最初はデビューに向かっていたものの
ここまで来ると、もはや日常になっていて

僕は本当にデビューがしたかったのか、分からなくなった。



もちろんデビューする事自体は嬉しい事だし
練習生なら誰しもが夢見ている事であって

たくさんの先輩達を見てきたのに、僕はこんなにも不安だ。



なんでこんなにも不安なんだろう

みんな1回は通る道なのかな



僕の頭の中に浮かんでくる姿を、消すのに必死な日々を送っている。

こんな状態のまま、デビュー出来る気がしない。








LC「ヒョン、デビュー楽しみだね!!」



「ん、あぁ、そうだね、」



一緒にデビューするルーカスは、僕みたいな悩みもなさそうで羨ましいと感じてしまう。

たぶんそんな事ないのに。
ルーカスだって悩むことはあるはずなのに。

なんで自分だけ辛い思いをしてるみたいに…



世界規模で見れば、僕の今の悩みってちっぽけなものなんだぞ。
そう思ってもなんだかスッキリしない。

また、考えないようにしようと深呼吸をしても
消えてくれなかったその姿

手元にある書類には、その名前がしっかりと書かれている。



"こんなはずじゃなかった"



それはここにいるみんなが思ったことだろう。

本人自身も何度も感じたと思う。



僕はこんなにも醜いのだと、知りたくなかった

あの子がいなければ
とか



最低すぎる








華々しいデビュー曲は、とにかくかっこいい



この曲にあの子がいなかったことに少し安心してしまった。

これも最低だ



DY「ジョンウ?」



「…ん?」



ドヨンイヒョンも、テヨンイヒョンも

…いや、ここにいるみんな、あの子の事大切にしてるんだ



誰にも言えない
こんな醜い気持ち、誰も理解してくれない

言ってしまえば、僕はここにいれなくなる



JH「あなたは、最近どうしてる?」



MK「うゎ…ジェヒョニヒョンまで、俺にそんな事聞くの?」



JH「までってなに」



MK「俺もう既に、ずっとユタヒョンに聞かれ続けてるんだよね」



JH「そうなの?」



僕の視線の外で聞こえてきた会話

ちらっと様子を伺うと、ニコニコと楽しそうだった



MK「ジェミンも帰ってきて、毎日楽しそうですよ。

より笑顔が増えた気がする」



JH「本当に?久しぶりに会いたいな」



MK「何言ってるの?

ついこの前の説明会で会ったじゃん…!」



JH「確かに

もう会いたい」



その説明会も、僕はガチガチに緊張して行った



ルーカスとクンヒョンと一緒に前に出て軽い自己紹介もしたり、仲良い人も多かったから力の入った肩はそれなりにほぐれたんだけど



僕は、とにかくあの子を視界に入れないようにした

入れてしまったら、明らかに避けているのを感じ取られそうで嫌だった。

こんな気持ち、自分でさえも受け入れられないんだから、それを知られたらダメだと思った。



なるべく自然に、気付かれずにやり過ごすには
そうするしかなかったんだ。

とにかくその子がいる場所を見ないように、近づかないように



そのせいで話せなかった人もいてちょっと残念だけど、代償だと思えば軽いもんだった。



宿舎に帰ると、どっと疲れが押し寄せてきた。

それもそうだろう
僕はあの子を避けているようで意識しているのだから



あの子がどこにいるか、誰と喋っているか、どこに行きそうか
全てを見極めて反対の行動をしなければならない

もう、疲れる
自分の面倒くさい気持ちに



TY「ジョンウはあの時、話さなかったんだっけ?」



「な、何がですか、?」



TY「説明会の時あなたと話した?」



「っ、」



きっと今、僕が漫画の中にいたら
ギクッて言う効果音がついたと思う



DY「話さなかったんだ」



ドヨンイヒョンの言い方に、少し胸が痛かった

悪気は無い一言だし、声だって怒っているわけではないけど

"話さなかったんだ"って言葉が頭の中でリピートされた時、自分が責められている気がして



LC「ヒョン、あなたと話さなかったの?もったいない!!

あなた凄くいい子!!」



「…」



もう、やめて

どんどん自分だけが汚く見えてしまうから



あの時初めて話したルーカスからもいい子と言われるあの子と
そんないい子を自分の醜い感情だけで目を背け続ける僕



WW「…ジョンウ、?」



TY「っえ、どうした、?」



馬鹿みたいにかっこ悪い

こんな自分嫌いだ


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