約束の日。
先生とは駅で待ち合わせになった。
数ヶ月前はさんざん毎週会っていたはずなのに、私の中の " イケミヤ ハル " が無くなると途端に心臓がバクバク。
もう素の私で先生に会っていいんだ、と実感する。
待ち合わせにしていた駅の入り口のところへ向かうと、そこには既に先生の姿があった。
「 ごめんなさい、待たせちゃったみたいで…! 」
「 そんなこと気にしないでよ。じゃあ…行こうか 」
そして、連れてこられた場所。
そこは相変わらず、今日も行列が出来ていた。
「 ここって、もしかしてあの時の…? 」
「 正解!結局あの日プリン食べられなかったからね 」
先生にバレたあの日。気がついたら手から離れていた紙袋。中に入っていたプリンはぐちゃぐちゃになっていた。
「 えっとあの時は……騙すような事をしてごめんなさい 」
「 いや違う違う!蒸し返したくて連れて来たわけじゃないよ。単純に一緒に食べたかっただけ 」
" もうあの件で謝るのはやめよう " と先生は言った。
…先生は、大人だ。改めて痛感する。年齢の話じゃなくて、精神的に大きな人間。
早く追いつきたいのに。私もハルさんのような先生に似合う人になりたいのに。
だから今日の格好は、少し大人っぽくしてみたんだけど…どうなんだろう。先生はそういうのに気がつく人なんだろうか。
「 この調子だとあと20分くらいでプリンが食べれそうだよ!楽しみだね 」
………うーん。多分気がついてない。鋭い時は鋭いけど、基本的にこういう人だからハルさんも色々大変だっただろうなぁ。
先生との思い出を作るたびに、私の脳裏に浮かぶのはハルさんの存在。
こういう時、ハルさんはどう声をかけるのかな?とか、どうしてあげるのかな?とか。
先生は私の中のハルさんじゃなくて、私自身に今会いにきてくれているのに…
こんな自分は、惨めだ。隣で先生がいるっていうのに、自分で蒔いた種だけど今の状況に手放しで喜べなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!