第8話

episode 8
366
2018/03/31 02:02



約束の日。

先生とは駅で待ち合わせになった。
数ヶ月前はさんざん毎週会っていたはずなのに、私の中の " イケミヤ ハル " が無くなると途端に心臓がバクバク。
もう素の私で先生に会っていいんだ、と実感する。


待ち合わせにしていた駅の入り口のところへ向かうと、そこには既に先生の姿があった。



「 ごめんなさい、待たせちゃったみたいで…! 」

「 そんなこと気にしないでよ。じゃあ…行こうか 」




そして、連れてこられた場所。
そこは相変わらず、今日も行列が出来ていた。



「 ここって、もしかしてあの時の…? 」

「 正解!結局あの日プリン食べられなかったからね 」



先生にバレたあの日。気がついたら手から離れていた紙袋。中に入っていたプリンはぐちゃぐちゃになっていた。



「 えっとあの時は……騙すような事をしてごめんなさい 」

「 いや違う違う!蒸し返したくて連れて来たわけじゃないよ。単純に一緒に食べたかっただけ 」


" もうあの件で謝るのはやめよう " と先生は言った。

…先生は、大人だ。改めて痛感する。年齢の話じゃなくて、精神的に大きな人間。
早く追いつきたいのに。私もハルさんのような先生に似合う人になりたいのに。


だから今日の格好は、少し大人っぽくしてみたんだけど…どうなんだろう。先生はそういうのに気がつく人なんだろうか。



「 この調子だとあと20分くらいでプリンが食べれそうだよ!楽しみだね 」



………うーん。多分気がついてない。鋭い時は鋭いけど、基本的にこういう人だからハルさんも色々大変だっただろうなぁ。


先生との思い出を作るたびに、私の脳裏に浮かぶのはハルさんの存在。

こういう時、ハルさんはどう声をかけるのかな?とか、どうしてあげるのかな?とか。
先生は私の中のハルさんじゃなくて、私自身に今会いにきてくれているのに…

こんな自分は、惨めだ。隣で先生がいるっていうのに、自分で蒔いた種だけど今の状況に手放しで喜べなかった。






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