「大気君、どうしたの?」
私が聞くと、
「…あ、ううんなんでもない…。」
「聞いちゃダメだったかな…?」
そしたら、大気君は。
「ううん、ちゃんと答えるよ。」
「じゃあ…さっきの質問に答えて。」
私は少しキツメに言った。
大気君は少し黙り込んで、口が開いた。
「…兄さんは俺の憧れだった。
俺よりなんでも出来て…」
「南雲の事大好きなんだな~」
杏美が言った。
(まあ確かに。お兄ちゃん想いなんだな~)
「まあ…俺とは違いますから…」
そう言ってうつむいた。
そうだ。
大気君が引きこもってる理由はたったひとつ。
兄の竜一と比べられてよくいじめられていたから。
高校に入学して以来、1ヶ月ほどしか学校には来ていなかった。
だから皆が知らないのも無理はないわ。
「でも、それの何が関係するですか?」
大気君が聞いた。
「あ、えっと」
言っていいのだろうか。
もし、
「竜一を高校の屋上から落とした?」
なんて聞いたらなんて思うか。
もし、違ったら他でもない。
部屋の窓から少し寒気のする風が吹いてきた。
そして、
「兄さんは殺されたんですね?」
突然の言葉に杏美と私は唖然とした。
「え、なななんで!」
動揺しながら杏美が聞いた。
「なんか、二人ともそんな感じがした。
というかまず、兄さんが自殺するはずがないだろ?
大学受験だって受けて心待ちにしていた夢に近
づいてきているのに…。」
(…た、確かに。この一年。竜一は受験のために低かった点数をやっとこそ上げた。
そして、合格ラインまで頑張ってた。)
「それもある、ね。」
「図星なんだね?」
「…」
私は黙って頷いた。
何かを考えながら…
「え、南雲って大学受験してたんだ…」
ひとりだけ分かっていないみたい…
「…俺は、兄さんは殺さない。嫌、殺すことなんて出来ない。それだけは覚えていて欲しいよ、真緒ちゃん。」
「た、大気君…うん、疑っちゃってごめんね。ううん、疑ったんじゃない試してごめんね。」
「ううん、いいんだ。俺は、兄さんを屋上から落とした奴を一刻も早く見つけてほしい。
警察には連絡しないの?」
(…)
「しないよ。これは私と杏美と中島君や小夜ちゃん、大気君で捕まえなきゃ。
竜一に最後に出来ることはこのくらいしかできないんだから。」
ふと、前髪で隠れている目から涙が…
「た、大気君…?」
「あ、嫌。へへ、恥ずいな。」
「ううん」
私と杏美はそのまま帰った。
そして、今。
何かが動こうとしている ━━━━。
- 卒業まで残り20日 -
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。