私は放課後、ひとりで大気君に会いに行った。
いや、きっと大気君に会いに行ったんじゃない。
「大気君」
「…え?真緒ちゃん」
大気君が驚いた顔をして玄関に立った。
「話があるんだけどいいかな?」
大気君は少し悩んで、
「分かった。どうぞ」
と私を中に入れてくれた。
「それで話って?」
私は大気君が出してくれた麦茶を飲んで深呼吸し、話した。
「大気君は、竜一が江藤先輩について行ったところをたまたま見て、ついて行ったでしょ?」
「……ッ」
「それは、どうして…って、そりゃついて行くよね?」
大気君がうつむいた。
ううん、大気君がうつむいたんじゃない。
「あなた、大気君じゃなくて竜一でしょ?」
「……」
下を向いたまま無言が続いた。
そして、
「……どうして分かったんだ、真緒…」
「私はいつからあんたを見てたと思ってんのよ。」
「真緒…」
「竜一、あんたはたまたま江藤先輩が来た時にお風呂かトイレにいたんでしょ?
それで、チャイムが鳴っても誰も出れなかった。だから、大気君が仕方なく出たんでしょうね。そのまま、大気君は江藤先輩に連れていかれて学校で何者かによって命を経った。
これで、合ってる?」
竜一は驚いていた。
まあ、そりゃそーよね。
(あ~!なんか吹っ切れたわ)
そう思っていると。
「確かに俺は、あの時風呂に入ってて気づかなかった。」
「…うん」
「大気は俺を呼んでるって言ってたんだ。
でも、大気はなぜか「俺が行くから。」とか言って大気が自分から言ったんだ。」
「た、大気君が?」
「ああ。よくわかんねーけどその後俺が死んでるみたいになってて…。何にも言えないまま1ヶ月という時間が経ってた…」
「…つまり、竜一は大気君が自ら行ったって言いたいんだね?」
「ああ。」
「そのこと、誰にもに話した?」
「話してない。」
「そう…」
「でも俺、江藤先輩に会いたい。会ってその事を知りたい。」
「…分かった。じゃあまた来るわ。その時。」
「…真緒、なんで俺だって分かったんだ?」
竜一が不思議そうに聞いてきた。
なんでか?そんなのあたり前じゃない。
「大気君は前会った時は繊細な子だったもの。だから、客の前であぐらなんかかかないわよ。
それに、江藤先輩や小夜ちゃんが言うには後ろから竜一らしい人がいるって聞いてたし。
何より、大気君が竜一の部屋に行ってる事から怪しい。」
「ま、真緒。お前スゲーな…」
「そりゃそーよ。あんたより頭いいんだからね。」
「あっはは!久しぶりにあったと思えば口悪いな~」
「な、何よ…!じゃ、また。」
「おう。てか、この事まだ誰にも言わないでくれよ。」
「分かってる。ちゃんと自分でいう気なんでしょ?私はそれまで待ってるから。」
私の言葉に竜一はゆっくり微笑んで
「ああ、そうだな。ありがと。」
と言った。
私は下を向いてそのまま駆け出した。
上を向くとそこは夜空。
星々がひとつひとつ輝いて綺麗。
そして、その夜空はにじんでいく…。
「竜一…に、会えた…」
私はその夜空の下で泣き崩れた。
- 卒業まで残り14日 -
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。