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第8話

かすれた血の記憶
薄暗い部屋の中、差し込んだ月光で皐月ねえの真剣な表情が青白く浮かんでいる。
九井原 皐月
九井原 皐月
あなたは……私達食人鬼の頂点、 女王イヴの血筋を持つ者なのよ
九井原 夕莉
九井原 夕莉
食人鬼の女王イヴ……?
皐月ねえの突拍子のない発言に私は素直に疑問を示した。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
どういうこと? 全くそんな話聞いたことない
九井原 皐月
九井原 皐月
突然の話に、動揺するかもしれないけど大事なことだからよく聞いて
皐月ねえは足を組んでじっと私の顔を覗き込む。その覚悟の決まった視線から私は目を逸らすことが許されないような心地になった。
九井原 皐月
九井原 皐月
食人鬼の女王イヴっていうのは、始祖の食人鬼の血筋を受け継ぐものなの
九井原 皐月
九井原 皐月
百年に一度、一人生まれる貴重な存在
九井原 皐月
九井原 皐月
赤い瞳を持つ……特別な食人鬼
九井原 夕莉
九井原 夕莉
赤い瞳って……
この前、襲われた上嶋くんを助けるために今までにないような力が湧いたことを思い出す。

その時、ガラスに映った私の瞳は血のような赤色になっていて――まるで化け物のようにおどろおどろしいものだった。
九井原 皐月
九井原 皐月
私は……あなたを守るために、幼かったあなたを住処コロニーから連れ出した。そして、禁忌だった人の世界に降りたの
九井原 夕莉
九井原 夕莉
人の世界が禁忌?
九井原 皐月
九井原 皐月
そう、本来決められたものしか住処コロニーを降りてはいけない。私や三好くん以外の食人鬼と、夕莉はほとんど会ったことないでしょう?
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(確かに……私はずっと人の世界で暮らしていると思い込んでいた)
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(もしかして私は……昔のことを覚えていない?)
九井原 夕莉
九井原 夕莉
でもどうして、私達は人の世界に?
九井原 皐月
九井原 皐月
それはね……
皐月ねえが一度逡巡するように視線を外した。噛み締めた唇を無理やりこじ開けるように、皐月ねえは小さく息を吸って言う。
九井原 皐月
九井原 皐月
あなたが……禁忌を犯したからなの
緊張感が滲み出る発言に、私の心臓はドクリと大きく脈を打った。

身に覚えのない出来事のはずなのに、不安で胸が一杯になる。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
禁忌って……どんな
ごくりとつばを飲み込んで、皐月ねえの言葉を待つ。
本当に、私はこの話を聞いていいのだろうか。
九井原 皐月
九井原 皐月
覚えてないかもしれないけど……あなたは重要な立場だから無断で人を喰べるのを禁じられていた
九井原 皐月
九井原 皐月
それから……いえ、これは後にしましょう
皐月ねえは慎重に話を進めたいようで、動揺している私の様子を見ながらゆっくりと語る。
九井原 皐月
九井原 皐月
だけど、ある日あなたは血塗れで帰ってきた。人間の血を全身に浴びて……
皐月ねえは懐から古い布きれを取り出す。部屋が暗く、赤黒く変色しているので元の柄がよくわからない。
九井原 皐月
九井原 皐月
私たちはあなたの後処理をするため、すぐにその人間を調べた
九井原 皐月
九井原 皐月
あなたが襲ったのはーーこのひまわりのワンピースを着た小さな女の子だった
ぞくりと、背筋に冷たい氷の線が通り抜けていくような感覚に襲われた。

ずっと前に三好先輩に聞いた上嶋くんの妹の事件のことを思い出す。

「君の妹が殺された事件――あれは食人鬼の間でも噂されてる有名な事件なんだ」
「食人鬼の間で……重要な人物が関わっているって噂があるんだよ」

その一瞬、私の息は止まった。

ポツポツと腕がむず痒くなって鳥肌が広がっていく。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(そんなこと、あるはずない)
だって私、何一つ覚えてない。


恐ろしい可能性を想像して、肺の底が凍りついたみたいにうまく息ができなくなった。

自分の肩を掴んでギュッと力を込め、恐怖に耐えようとする。
九井原 皐月
九井原 皐月
禁忌を犯したあなたは追放されることになった。でも私はあなたを守りたい一心で一緒に外に行くことにしたの
九井原 夕莉
九井原 夕莉
皐月ねえ……
九井原 皐月
九井原 皐月
夕莉、大丈夫。分かってるから
震える私を皐月ねえは包み込むように抱きしめた。子供を慰める母親のような手つきで頭を撫でる。
九井原 皐月
九井原 皐月
大丈夫……これから先も、私が夕莉を守るよ
九井原 皐月
九井原 皐月
あなたは……私のたった一つの希望になってくれたから
皐月ねえの声はくぐもっていて、もしかしたら泣いてるのかもしれなかった。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(――違うの、皐月ねえ。私が本当に怖いのは……)
追放されたことでもなく、女王の血筋引いてることでもなくてーー
その時。

キィィィと軋むような音が後ろから聞こえてきた。



私はすぐに扉の方を振り返って、息を飲んだーー。