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第30話

息もできない苦しみに溺れて
陸下 陽翔
陸下 陽翔
お前なんてっ……!
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
ぐっ……!
力任せに首を絞められ、喉が潰れ脊髄がのけ反っていく。
すぐそこに迫りくる、死の感触。
 
冷たく、暗い深海に沈んでいくような息苦しさ。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
(このまま、俺は死ぬのか?)
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
(夕莉に、何も伝えられないままーー)
 体が重く床に沈んでいくような気がして、意識が遠のいていく。
もがいた手が空を掴む。まるで大切な人の手を求めているようだった。
走馬灯のように、夕莉との日々が脳裏に過ぎる。
白い波打ち際で受けた告白。
 
 
 
俺の頬に優しく触れた唇は震えていて、彼女が決死の覚悟で俺に想いを告げたのだと分かった。
 
 
君は小さな唇で俺に呟いた。
「私は」
 
 
「君のことが好きです」
自分の呪いめいた宿命に抗っていた彼女の気持ちを俺は考えてあげられなかった。

自分のことで精一杯で、彼女のことを受け止めてあげられなかったんだ。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
(もう、苦しそうな夕莉の顔は見たくない)
だから、俺が何度でも助けるって決めたんだ。
意識を失う前に最後の力を振り絞り、「秘密兵器」の仕込まれている腕を陽翔の首筋に向ける。
馬乗りになっている彼に、袖の隙間に仕込んだ秘密兵器を打ち込んだ。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
うぐっ……!?
佐那城先生から夕莉を取り戻しに行った時ーー使わなかった「秘密兵器」。一度きりしか使えないとっておきの手段。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
くそっ……! なんだ、体が、痺れ
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
かはっ……! はぁ……流石にこの至近距離で外れるわけないな
ぐったりと脱力した陽翔の体の下から這い出て、呼吸を整える。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
秘密兵器だ。強力な麻酔針、探偵にはつきものだろ?
陸下 陽翔
陸下 陽翔
くそ! こんなオモチャで……!
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
とは言っても侮れないぞ。一発分しか作れなかったほど強力な麻酔針なんだ。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
ぐっ……!
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
人間とは思えないほど、驚異的な体力だな。普通ならすぐに気を失うはずだが……
悔しそうにしながらも、陽翔は手足を動かすことができないようだった。

僅かに動かせる顔を俺に向けてきっと睨みつける。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
くそっ、くそっ……どうして。
俺はまだ
彼は激痛に顔を歪め、必死に体を動かそうとする。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
うぐ……いっ、傷が……
血で視界が……
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
お前……まだ気がつかないのか?
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
それは血じゃなくて、お前自身の涙だよ
陸下 陽翔
陸下 陽翔
ーーえ?
ポタポタ、と床に透明な滴が落ちた。

陽翔はそれで、自身が涙を流していることをやっと理解する。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
なんで、俺……ずっと、血だと
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
なあ、人が傷ついた時に流れるものは血じゃない
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
涙なんだ
ぼうっと、陽翔は俺を見上げまた大粒の涙を溢す。
ポタリと、また床に滴を落とすと自嘲するような笑みを口元に浮かべた。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
なんだよ……俺はずっと泣いてたのか
せきが切れたように溢れ出す涙が、彼の傷をなぞり、血にまみれた顔を洗い流していく。

俺は息を整えて、落ち着いて彼に語りかけた。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
その麻酔薬、本当は……夕莉に使おうと思って持っていたんだ
陸下 陽翔
陸下 陽翔
……佐那城に拐われたときか?
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……ああ。夕莉の状態が良くなかったことは知ってた。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
……彼女が暴走したら打とうと?
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……もし餓えを抑えられなくなったら彼女はとても苦しむだろうと
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
そして、予想通り彼女は俺を襲った。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
……? その時、用意していた麻酔針を彼女に打ち込むことはできたはずだ。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
でも、どうしてそうしなかったんだ……?
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……それじゃ、意味がないと思ったんだ
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
大事なのは、傷つけられないことでも傷つけないことでもない
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
例え傷つけられても、受け止めてやることが俺のすべきことなんじゃないかって
自身の肩の付け根に手を伸ばし、残っている傷に触れた。シャツをまくると幾つもの傷がついており、触るとまだじくじくと痛む。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
傷つけられても……?
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
手を伸ばしたら、傷つけられても離さない
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
お前も伸ばした手を掴んで欲しいなら、傷ついてでも手を伸ばし続けろ
じっと、陽翔は俺を見つめたまま黙っていた。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
何回も、何回も相手が自分の手を掴むまで……な
彼を置いてゆっくりと立ち上がる。俺は夕莉に会うため、長い長い廊下を再び歩み始めた。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
…………