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第32話

もう一度その手を取って、離さないで
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……
九井原 夕莉
九井原 夕莉
上嶋くん……
ずっと、君に会うのを夢見てきた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(でも……)
動悸が止まらないのは、会えて嬉しいからというだけではない。
彼の顔を見ると、月明かりの忌まわしい記憶も同時に蘇ってきて、体が強張った。
首筋の脈がどくどくと速くなって、息ができなくなる、二度と味わいたくない感覚。
私を優しく撫でて救ってくれた手に、死に追い詰められる絶望。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……夕莉
名前を呼ばれて顔を上げる。彼は黒く澄んだ瞳で私を見つめていた。

ずっと私を見つめてくれていた、優しい目だ。
私から目を逸らさず、彼はこう言った。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
ーー俺を殴ってくれ
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……はい?
上嶋くんの素っ頓狂な発言に、私は上ずった返事をしてしまった。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
殴るって……なんで!?
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
これで許されるとは思ってないし、許してくれなくてもいい
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
だけど……自分がしたことにはけじめを付けなきゃいけないだろ
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……俺は夕莉を、優夏の仇だと勘違いして傷つけたんだから
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……本当の犯人は見つけた。ごめん、俺は……ちゃんと君に償わないと
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……上嶋くん
三好 修悟
三好 修悟
……お前、俺がいない間に何やってたんだよ
三好先輩は鋭く上嶋くんを睨みつけた。低い声が空気を震わし、彼の怒りが滲み出ているのが分かる。
上嶋くんの行動で、私は確かに傷ついた。怖い思いもして、会うのに戸惑いもあった。
だけど、彼が真剣な気持ちなのも分かる。
私を傷つけたことに、深い後悔の念を抱いている故の覚悟があって、優しい彼は自分を許せないのだ。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
でも、そんなやり方じゃなくてーー
三好 修悟
三好 修悟
じゃあ、代わりに一発殴らせて
九井原 夕莉
九井原 夕莉
え?
バキっ!
足早に前に出た三好先輩が、躊躇なく上嶋くんの頬を殴りつけた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
三好先輩!?
三好 修悟
三好 修悟
……悪いな。俺は黙ってられなかった
三好先輩は上嶋くんを殴った手をぐっと握り締め、もう一度振り上げようとした。
上嶋くんは歯を食いしばって痛みに耐え、目の前の三好先輩に顔を向けた。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……すまないな。三好
三好 修悟
三好 修悟
謝るな馬鹿。お前は夕莉の……!
殴られた上嶋くんの表情は落ち着いていた。赤くなった頬を押さえることも、痛がる様子も見せず、ただ三好先輩に視線を真っ直ぐ向けている。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
幾らでも、殴ってくれて構わない
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
お前の気持ちも、全部受け止める
三好 修悟
三好 修悟
……っ!
三好先輩は感情を堪えるように唇を噛み締めると、絞り出したような声で言った。
三好 修悟
三好 修悟
……本当は、もう一発殴りたいぐらいだが……俺も何もできなかったのは同じだ
自分を責めているのか、三好先輩は悔しそうに眉間を歪めた。
三好 修悟
三好 修悟
……もう二度と、目を離すなよ
三好先輩は振り上げた腕を下ろし、上嶋くんの眼前に突き出した。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……ああ
上嶋くんは自身の拳を三好先輩のものに合わせて、深くゆっくりと頷いた。
三好 修悟
三好 修悟
次に目を離したら、俺は遠慮なく奪うからな
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
そうならないようにする
私の目の前で、二人は拳を突き合わせて視線を交わし、最後には口角を上げた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(私には分からないけど、これが男の子の友情ってことなのかな)
自分のことだと思うと、何だか気恥ずかしくなってしまうところもあるけど。殴り合いにならなくて良かったと安心した。
三好 修悟
三好 修悟
はい、次は夕莉の番。あいつの顔面腫れるくらいボコボコにしてやれ
九井原 夕莉
九井原 夕莉
えっ!? ちょっと
ぽんと、三好先輩に肩を叩かれ催促される。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
夕莉、ごめん
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
俺は、覚悟できている
九井原 夕莉
九井原 夕莉
でも……
吸い込まれるような黒曜石のような瞳に再び見つめられると、拒みづらくなった。

怖がっているのは、恐れているのは私の方なのだろうか。
意を決して、私は息を吸い込む。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……分かったよ
彼に向かって勢いよく駆け込み、
私は手を伸ばしてーー















ーー彼に、抱きついた。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
夕莉……!?
上嶋くんが驚いたように、体を強張らせる。何度も私を抱きしめてくれた胸に顔を埋め、抱きしめる腕にぎゅっと力を込めた。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
何を……
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……し
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
え?
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……禁止
自分からしたにも関わらず、恥ずかしさが抜けず、独り言のように呟いた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
私を抱きしめるの禁止、頭を撫でるのも禁止……
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
な……
九井原 夕莉
九井原 夕莉
それから……キスをするのも禁止します
彼の背中に手を回し、その顔を見上げた。

平静を保っていた彼の顔は、紅潮し額からは汗が流れている。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
全て私からすることはできるけど……君には以上の行為を禁止します
それから私は彼の首筋に軽く触れるだけのキスをした。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……ッ!
びくりと、彼の肩が震えて反射的に彼の腕が私に伸びるのが見えた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
ダメだよ。禁止の約束なんだから、ここを無事に出るまで、全部お預け
首筋から今度は耳元に唇を移し、言い聞かせるようにささやく。上嶋くんの耳は果実のように真っ赤になっていた。

そっと彼の体を解放し、私は口元に微笑みを作る。

上嶋くんは手で覆っても隠せないほどのぼせたように赤くなった顔で、小さく呻いた。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……すごく、きつい罰だな。殴られるよりも、きつい
九井原 夕莉
九井原 夕莉
ふふ、頑張ってね
潤んだ目で視線を彷徨わせる彼が可愛くなって、私はつい笑ってしまった。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……夕莉、お前いつそんなの覚えたんだ?
距離を取っていた三好先輩がもごもごと呟いて、口元を抑えた。何となく顔が赤くなっているような気がする。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……? なんで先輩が赤くなってるんですか?
三好 修悟
三好 修悟
……流石に同情するな、上嶋には
目を逸らしてぶつぶつと独り言を言う三好先輩をよそに、私は再び上嶋くんに迫る。

優しく語りかけるように、丁寧に言葉を紡いた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……でもね
私は上嶋くんの手を取って、両手で包み込む。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……夕莉
再会して初めて、緊張の解けた彼の声を聞いた。壊れ物に触るのを恐れていた手が、私の方に伸びる。

ぎゅっと、上嶋くんは誓いを立てるように私の手を握り返してくれた。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
うん、今度は絶対
……これからずっと離さない
久々に照れくさそうに笑う彼を見て、私はまた彼と心が繋がった気がした。























































◆◆◆
能美川 明梨
能美川 明梨
こんな結末、望んでないわ……
能美川 明梨
能美川 明梨
私が……幸せになるはずでしょう?
能美川 明梨
能美川 明梨
そうだ、全部……壊して……
能美川 明梨
能美川 明梨
おとぎ話を、最初からやり直せばいい……