穏やかな景色、隣で笑う彼女や元気な妹。
彼女の手を取ると、よく知った冷たい手だった。
いつも触れていた冷たさに安心する――
――はずなのに、どこか違和感を感じた。
前は、自分の熱がすぐに伝導してほのかな温かさが握り返されたような気がしたのに。
彼女の手は、全てを吸い込んでしまうような、ひたすら熱を奪っていくようなもので。
自分の中身まで吸い取られて、空っぽになっていくような。
俺は立ち止まって、彼女を見た。
ぱっと手を離して、彼女をじっと観察する。
妙に居心地いい空間、俺に手を振る妹と家族。
心の中がすべて満ち足りているような穏やかな気分。
確かにそれを実感していて、間違いのない感覚のように思える。
自分の心に湧く気持ちも、目に映るものも、全て俺が否定したくないものだった。
怪訝そうに彼女が首を傾けると、ブラウスの中にきらりと輝くものが隠れた。
俺は彼女の首筋に手を伸ばして、金色のネックレスを引っ張り出す。
太陽の光を帯びる、ひまわりの形をしたネックレス。
――俺が、あの日誕生日プレゼントで優夏にあげたものだった。
明梨はありえないといった表情で俺を見上げる。ただでさえ白い顔から色が失われ、蒼白になっていた。
明梨は眉を寄せ、俺を睨みつけながら息を飲んだ。
優夏が心配そうに俺に話しかけてきた。眉を下げると前髪に隠れていたほくろが見えるところまでそっくりだった。
俺は優夏の頭に麦わら帽子を返して、名残惜しさを残さないように軽く撫でた。
名前を呼ぶと泣きそうになった。
もう、呼ぶことのない名前だったから。
明梨は激情を抑え込むように、震える声音で俺に問いかける。
そう言っていびつに笑った彼女に、俺はたった一言だけ返した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。