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第7話

闇の向こうの秘密
暗闇の中に落ちていく。
元々温度のない体が凍えそうな寒さを感じて、私は体を丸めて膝を抱え込んだ。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
寒い……
息苦しくて、指先から体の感覚がなくなっていく。まるで光の届かない深海にいるかのようだった。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
あれは……
まるで塗りつぶされたような真っ黒な視界の端に、ぼうっと淡い光が灯る。

それは赤い鬼火のような炎で、まるで無数の手のひらが手招きをするかのように揺らめいていた。

その炎はだんだんと燃え広がって、視界はおどろおどろしい赤い火の海に満たされる。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
やだ……
足元まで迫った炎が勢いを増して私の体を蝕み、私の体を燃やし尽くそうとした。

体にできる焦げ跡がまるでこびりついて取れない血の染みのように私を侵食していく。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
いや……いやあああああああぁ!





やっと水面から顔を出したような引きつった息をすると、視界に広がった光景はまったく別のものだった。

真っ先に目に映ったのは、心配そうに私を覗き込む上嶋くんの顔。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
夕莉! 大丈夫か?
私が返事をすると上嶋くんは安心したような表情を浮かべて、私の額を撫でる。私は上嶋くんの膝に頭を預けて眠っていたようだった。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
上嶋く……ん
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
ずっと目が覚めないから、心配だったんだ。うなされてたみたいだし
九井原 夕莉
九井原 夕莉
ん……もう平気だよ
いつでも温かい上嶋くんの手のひら。何度も私と手を繋いで、私に触れてくれた。この手のひらの温度があるだけで、私はここにいられる。

君と一緒にいるためだったら、どんなことがあっても乗り越えたいと思う。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
ここは……どこなの?
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
食人鬼の住処コロニーへの中間地点らしい。古い教会の一室だよ
視線を動かすと古い木造の部屋にベッドだけが置かれた簡素な部屋だということが分かった。

上嶋くんはベッドに座り、膝枕をした私が起きるのをずっと待っていてくれたのだろうか。窓から差し込む月光が部屋を青白く照らしている。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
食人鬼の住処コロニー……
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(本当に行くんだ……)

ECO に追われている今、人の住んでいる場所には居られない。皐月ねえが旅支度を始めた時にはもう、どこに行くのか検討がついていた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(上嶋くんは、全部分かってここまで来てくれた)
何回も自分の身を危険にさらして、これからも何があるのか分からないのに。

彼の袖からは白い包帯が覗く。上嶋くんが今まで傷ついてきた生々しい痕を想わせて胸がじくりと痛んだ。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(このままじゃ、上嶋くんの体がもたない――)
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……で、俺はいつまでこうしてればいい?
九井原 夕莉
九井原 夕莉
へ?
真剣に悩んでる最中に眉間にできた皺を上嶋くんの指先で伸ばされて、私は面食らう。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
ずっと膝枕してたから足がしびれてきた
九井原 夕莉
九井原 夕莉
あっ……ごめ
慌てて起き上がって退こうとした私を、上嶋くんの腕が捕まえる。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
だから……
九井原 夕莉
九井原 夕莉
わっ……!
上嶋くんはそのまま私ごとベッドに倒れ込み、私を抱きしめて体がぴったりと密着するように胸の中に閉じ込めた。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
今度は夕莉が俺の抱き枕になってよ
九井原 夕莉
九井原 夕莉
ちょっ、ちょっとー!
私は思わずじたばたと暴れてしまうが、上嶋くんは構いもせず私をがっちりと抱きしめている。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
うーん、体温がなくて冷たいな。寒い
九井原 夕莉
九井原 夕莉
悪かったですねー!
意地悪なことを言われて私は頬を膨らませながら、ぽかりと上嶋くんの背中を軽く叩いた。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
でもこうすれば俺の体温がお前に移って、夕莉を確かめられる

上嶋くんの手が、私の後ろにかかった髪をなぞるように優しく背中を撫でる。

降り注ぐような月の光が、まるで上嶋くんと世界に二人きりになったような気分にさせた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(相変わらずズルいなあ……)

いつも彼の少し強引なところに怒りきれない。びっくりするし、心臓に悪いから嫌なのに、それをどこか期待してる自分がいる。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……怖いんだ。お前がどこかに行ってしまいそうで
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
こうでもしなきゃ、確かめられないし、安心できない
包み込むような優しい抱擁から、一つに溶け合ってしまいそうなほど強く体が引き寄せられる。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(そっか……上嶋くんもずっと怖かったんだ)
私は君を傷つける化け物なのに、それでも君は傷ついた腕で私を抱きしめてくれる。

行かないでくれって言ってくれる。



私が、私でなくなってしまうことが怖いんだ。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(温かくて、離したくないな)
目頭が熱くなるのを感じなながら、私も恐る恐る上嶋くんの背中に手を回した。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(……ずっと、このままでいれたらいいのにな)
ゆりかごの中にいる赤子のようで温もりに安心する。私はまどろみに誘われて、再び瞼を閉じようとした。



しかし、密やかな静寂の時間はバァァン! と勢いよく開いた扉の音に打ち消される。
九井原 皐月
九井原 皐月
夕莉! もう起きた……
九井原 皐月
九井原 皐月
……
九井原 夕莉
九井原 夕莉
わわわわわわわ、皐月ねえ!?
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……取り込み中なんですが
九井原 皐月
九井原 皐月
お、お、お、お取り込み中しつしつ失礼……
九井原 夕莉
九井原 夕莉
べ、別に変なことは何もしてないから! 何もないから!
皐月ねえが固まって、壊れたロボットのように言葉を詰まらせてしまったので慌てて弁解する。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
誤解されてもいいけど
九井原 夕莉
九井原 夕莉
ダメだよ!!
九井原 皐月
九井原 皐月
夕莉! そういうのはまだあなたには早いわよ!!
九井原 夕莉
九井原 夕莉
皐月ねえ落ち着いて! ベッドを持ち上げようとしないで!
九井原 皐月
九井原 皐月
とにかく、元気そうね! ちょっと私の話に付き合って!
九井原 夕莉
九井原 夕莉
わーっ!
皐月ねえは私を上嶋くんから引き剥がし、私を抱きかかえたまま即座に部屋の外に出る。

あまりの手際の良さに上嶋くんはポカンとしていた。





◆◆◆◆

皐月ねえは私を他の一室に連れていき、整えられたベッドの上に私を降ろした。

はあ、とため息を吐きながら皐月ねえは椅子に座る。
九井原 皐月
九井原 皐月
さっきのことは……一回置いておいて。あなたに話があるの
混乱していた皐月ねえは落ち着きを取り戻し、真剣な表情で私を見据えた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
話って……?
九井原 皐月
九井原 皐月
私がずっと隠してきたあなたの秘密についてよ
皐月ねえは深呼吸をしてから、もう一度私と目を合わせて慎重に言葉を紡いだ。
九井原 皐月
九井原 皐月
あなたは……
私達食人鬼の頂点、 女王イヴの血筋を引く者なのよ