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第21話

キスがなければハッピーエンドは
真っ赤な海が広がっていた。



生臭い、血の匂いがする。

肌に張り付いて、乾いていく液体が気持ち悪い。

爪先も赤くて、何か柔らかいものが挟まっている。




暗い路地裏で、小さな体が血の海に横たわっていた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(……思い出してはいけない)
ひどい光景に手のひらで目を覆う。



近づいてはいけないのに、足が勝手に動いて――
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(ダメ、その先に行っては……)
血に沈んだその少女の傍らにはーー













九井原 夕莉
九井原 夕莉
…………っ嫌!!
ばっと、飛び起きるように私は覚醒した。



走った後のように胸が上下して、心臓の鼓動が速い。

荒い呼吸を繰り返しながら、私は周りを見渡して現実を確かめた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
ここは……
柔らかいベッドの上で私は眠っていたようだった。



手触りのよい清潔なシーツ。
複雑な模様で彩られた絨毯や壁紙、アンティークな家具。



まるで洋館の一室のような部屋だった。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
どうして私はここにいるの……? 
森の中にいたはずなのに……
まだ頭の奥がずきずきとして上手く思い出せない。



先程飛び起きる前に見た夢も、悪夢だったような気がして……





ガチャリ、と部屋の扉が開かれた。



入ってきたのは――





上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……夕莉?
九井原 夕莉
九井原 夕莉
上嶋……くん?
切れ長の目、整った涼しげな顔立ちに、薄い唇。



見間違えようもない、私の大好きな人。



私はベッドを降りてすぐ上嶋くんの元に駆け寄った。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
上嶋、くん……上嶋くん!
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
夕莉!……無事で良かった
彼の胸の中に飛び込んで、思い切り抱きしめる。 



懐かしい体温。

まるでお日様に照らされているみたいで。

涙が出そうなほど、優しい温かさ。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
夕莉……ずっとこうしたかった
九井原 夕莉
九井原 夕莉
うん……私も、まるで夢みたい
ぎゅっと、お互いを確かめ合うように抱きしめる。

顔を見合わせると、上嶋くんは少し照れくさそうに微笑んだ。
まるで夢のような――そこで私はハッとする。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……あ
私は一歩、上嶋くんから後ずさる。



そうだ、こんなことーー








九井原 夕莉
九井原 夕莉
……ありえない
九井原 夕莉
九井原 夕莉
だって、上嶋くんは私を……
自分の首に触れると息苦しい心地がした。
首を絞められた時の苦しさを、痛みを思い出す。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
夕莉? どうしたんだ?
私が一歩一歩後退するたび、上嶋くんは近づいてくる。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
来ないで!!
背中が壁にぶつかった所で私は叫んだ。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……夕莉
九井原 夕莉
九井原 夕莉
あなたは……上嶋くんじゃない! 
あなたは誰?
私がそう問いただすと、上嶋くんの表情がすっと消えた。今までの顔がまるで作り物のように思える。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……大人しくしてれば、幸せな夢を見れたのに
上嶋くんは壁に手をついて、無表情で私を見下ろした。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
そんなに思い出したいのか?
彼の瞳の奥に怪しい光が見えた。鬼火のような、おぞましい炎。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
お前がずっと記憶を思い出せなかったのは、お前自身がその記憶を封じていたからだ
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
今、思い出させてやる
上嶋くんの顔が近づいてきて、唇が重なる。



生暖かい人の肉の感触。

血潮の流れさえ感じるほど、生々しい感触。



視界が赤い光に包まれていく。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……あ
頭の中に激しい痛みが走る。



それと同時に、まるでフラッシュバックのように――先程見た悪夢の続きが脳裏に映し出される。







九井原 夕莉
九井原 夕莉
……嫌
赤い血の海に沈む、ひまわりのワンピースを着た少女の姿。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
…………いや
ずたずた引き裂かれた体と可愛らしいひまわり模様。
その傍らでは、血で汚れた少年が涙を流していた。まだ幼さを残した彼の顔は、血と涙に汚れている。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……や、めて
よく知った愛しい顔に似たその少年は、私に溢れんばかりの憎悪を向けてこう言ったーー






















◾️◾️◾️◾️
◾️◾️◾️◾️
この、化け物め






記憶の中の少年と目の前の上嶋くんの顔が重なって、視界がぐにゃりと鏡のように歪んだ。



唇に残ったのはキスの甘い余韻ではなく、



食人鬼の食事後のような――生々しい血の味だった。





















◆◆◆◆
能美川 明梨
能美川 明梨
あなたの王子様はもういない
目覚めのキスは訪れない
能美川 明梨
能美川 明梨
二度と目覚めない白雪姫
物語だったらバッド・エンドね
ガラスケースのような、棺の中で眠る彼女。

私は彼女の蝋人形のように生気のない顔を見て微笑んだ。




私と同じ女王イヴの血を引くもの。

でも、ごめんなさいね。

物語にヒロインは二人もいらないの。



能美川 明梨
能美川 明梨
永遠に棺の中で眠っているといいわ
そして、私は目覚めることのないお姫様の棺をそっと閉じたのだった。