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第29話

この手で君を救えない
永遠に続くような廊下をふらつく足取りで進む。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
くそっ……夕莉
目覚めの悪い感覚が尾を引き、不快感に胃がひっくり返りそうだった。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
(でも、夕莉に会ったら俺はなんて言えばいいんだろう)
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
(そもそも、会わせる顔すらないかもしれない)
頭の中で感情と思考がぐちゃぐちゃとかき混ぜられる。真っ黒な泥沼の中でさ迷って、抜け出せないような感覚。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
(でも、その中でたった一つだけ、確かな気持ちがある)
脳裏に浮かぶ、彼女の顔。
俺が一番好きな――夕莉の顔。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
もう一度、夕莉に笑ってほしい
太陽に照らされた、ひまわりのように温かで。
思わず目を細めるような、そんな穏やかで、愛しい顔。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
俺はどうなってもいい……
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
せめて、夕莉だけでも
石畳の出っ張りに躓いて転びそうになったが、足を踏ん張ってなんとか片膝をつく。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
もう一度、笑って過ごせるような日常を取り戻してやりたい
だからこそ、一歩もここで止まる訳にはいかない。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
……ずいぶん立派な志だね
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……陽翔!
暗い廊下の先から、まるで闇が分裂するようにぬらりと現れた黒い影。
特徴的な漆黒のローブ。食人鬼に対抗する、公安課の特別対策室 ECO のものだ。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
お前……その顔
彼の虚ろな表情には赤い血の跡がまるで涙の通り道のように刻まれていた。
自身の顔をひっかき、出血した痕と血をかき混ぜたようで、まだらな血の模様が無表情の上に描かれている。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
自分はどうなってもいいだって?
陸下 陽翔
陸下 陽翔
勝手な理屈だな
陸下 陽翔
陸下 陽翔
そうやって君は、どれだけの人間を傷つけてきたんだ?
陽翔は嘲るような笑いを吐息とともに漏らす。彼は頬に爪を立て、また傷を増やした。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
お前……
彼の異常な自傷行為に、尋常ではない気配を感じる。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……それ以上、自分を傷つけたら
陸下 陽翔
陸下 陽翔
うるさいッ!!!!!!
空気が大きく震え、叫び声が廊下の向こうまで反響する。
キーンと耳鳴りが残り、頭にズキズキと痛みが走る。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
ッ……
陸下 陽翔
陸下 陽翔
俺が……
俺がずっとどんな思いをしてきたか
陽翔は距離を詰め、俺の胸ぐらを掴んだ。噛み付くような勢いで、俺を睨みつける。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
俺は明梨のためなら、何だってしてきた
陸下 陽翔
陸下 陽翔
明梨の望むものを全てを手にれてやりたかった
陸下 陽翔
陸下 陽翔
望んだものは一つも手に入らないあの子の、たった一つの願いを叶えてやりたかった
陸下 陽翔
陸下 陽翔
お前は何一つ知らない、お前が明梨にとってどれだけの存在か
陽翔は俺を壁に叩きつけ、頭突きするようにつり上がった眉間を押し付ける。
彼の怒りを立て続けに受け、反撃する暇もない。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
アイドルになって人間の生活に溶け込んで彼女の食事を探した
陸下 陽翔
陸下 陽翔
ECO に入って食人鬼に対する脅威から彼女を退けた
陸下 陽翔
陸下 陽翔
全部全部全部ぜんぶ、明梨のために
陸下 陽翔
陸下 陽翔
全てを奪われて、生きる意味を失った彼女に、今度は俺が手を差し伸べる番だと
陸下 陽翔
陸下 陽翔
そう思ったのに、彼女の目に映し出されるのは俺じゃないんだ
彼のひどい顔から、小さなしずくが頬を伝う。
赤い血の痕をなぞるようにして、星屑のように輝き、涙がぽろぽろと彼の頬を流れていく。
ぐっと首を絞められ、爪が皮膚に食い込む。
気道が押しつぶされて息ができなくなった。骨が軋む嫌な音が耳の内側で鳴っている。
苦しさで鼻が詰まり、酸素を求めようと口が無意識に開く。
死までの時を刻む時計のように、心臓の鼓動が早まっていく。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
どうしてお前なんだ。
どうしてどうしてどうしてどうして
陸下 陽翔
陸下 陽翔
どうして、俺じゃダメなんだ。明梨
だんだんと意識が朦朧とし、目の前が暗くなっていく。





ああ、




人に首を絞められるのはこんなにも、




苦しいんだ。