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第12話

僅かな光に手を伸ばして
もう取り返しがつかないと思った。

私が最初から上嶋くんに恨まれる存在だったとしたら、何もかも無駄だって。
九井原 皐月
九井原 皐月
あなたは……上嶋くんを同じ食人鬼にすることができるわ
九井原 皐月
九井原 皐月
これが、あなたたちが結ばれる唯一の方法
皐月ねえの瞳に映った私の顔が赤く揺らぐ。

そこで私は初めて自分の目が炎のように赤く輝いていることに気がついた。
覚えのある、おどろおどろしい血のような赤が燃えている。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(力を使えば……上嶋くんと)
体の奥で燻っていた熱が、じわりじわりと広がっていく。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(記憶を消して……上嶋くんが私と同じになってくれたら……また)
君と手を繋げるかな。



目の前が陽炎のように揺らめいて景色が歪む。
焦げ付いた感情がちりちりと音を立てて、耳鳴りがうるさい。



赤く、赤く、まるで炎に包まれたように視界が真赤になってーー私はその熱の中心に手を伸ばそうとした。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(ほしい、彼がほしい。ほしい、ほしい、ほしい、ほしいよ)
もう一度、彼の温度をーー
九井原 夕莉
九井原 夕莉
――あ
火傷しそうなほど熱い炎の中心に手を伸ばしかけて、私は上嶋くんと手を繋いだときの体温を思い出す。



私の体温のない体に伝わってくる、温かい温度。

冷たい私の手にはあまりにも温かくて、優しい熱。



私が大好きな、君の体温。

















九井原 夕莉
九井原 夕莉
……やっぱり、ダメだよ
私は燃え続ける炎を追いやるように、胸に手をあててぎゅっとワイシャツを握りしめる。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
そんなことをしたら……上嶋くんとは、本当に二度と手を繋げなくなる
九井原 夕莉
九井原 夕莉
手を繋いでも握り返してくれる温度がなくなってしまうから
九井原 皐月
九井原 皐月
夕莉……
激しく揺らめいていた炎が小さくなり、少しずつ熱が引いていく。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
私……さっきの一瞬、何でもいいから上嶋くんを手に入れたいって思っちゃった
九井原 夕莉
九井原 夕莉
でも……それじゃ、ダメなんだ。
そんなの意味なんてない。私の好きな上嶋くんじゃ、なくなってしまうなら……
九井原 夕莉
九井原 夕莉
私は……上嶋くんが上嶋くんでいてくれたから好きになったんだ。だから、彼を大切にしたい
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……私は、力を使わない
九井原 皐月
九井原 皐月
……そっか
皐月ねえは悲しげに眉を寄せて、私を抱きしめた。
あるはずのない温かさを感じられるような、いつもの優しい皐月ねえの抱擁だった。
九井原 皐月
九井原 皐月
ごめんね……夕莉。まるで試すような真似をして……
九井原 皐月
九井原 皐月
でも夕莉が選んだなら、私はどんな選択肢でも受け入れるつもりだった
九井原 皐月
九井原 皐月
私が間違ってた……私の方が弱かったね……
九井原 夕莉
九井原 夕莉
ううん、いいの……皐月ねえが私のことを思ってくれたの、分かるから
皐月ねえの体を抱きしめながら、私はまた泣きだしそうになるのを堪えた。
佐那城 悟
佐那城 悟
悲劇のヒロインになるのは、まだ早いんじゃない?
九井原 皐月
九井原 皐月
悟……!?
開いたままの教会の扉の方から、ニヒルな声が聞こえた。革靴の乾いた足音がゆっくりと近づいてくる。
佐那城 悟
佐那城 悟
君が上嶋くんの妹を殺したとは限らない……だろ?
飄々とした態度で、不謹慎な薄笑いを浮かべながら佐那城先生は私たちの前に立つ。
反感を誘う、見下すような視線に私は戸惑う。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
確かに……その記憶はないですけど
九井原 夕莉
九井原 夕莉
でも、私はその事件で住処から追放されたわけで……
佐那城 悟
佐那城 悟
ほら、記憶にないだろう? 5 年前くらいの出来事なのに、覚えがないのはおかしくないか?
佐那城先生の言葉に、私ははっとする。

上嶋くんに誤解されてからは自分がやったと思い込んでしまい、疑問に思っていたことを忘れていた。
佐那城 悟
佐那城 悟
それに……食人鬼の住処が近い場所で一人森の中にいる上嶋くんは、今とても危険な状態なんじゃないかな
九井原 夕莉
九井原 夕莉
自分のことばかり考えて、私は上嶋くんのことを考えていなかったことにようやく気がついた。
嫌な予感がして、私は思わず立ち上がる。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
上嶋くん……!!
佐那城 悟
佐那城 悟
……後を追うなら、早い方がいいよ
開け放たれた教会の出入口に向かって佐那城先生は再び歩き出した。

彼はポケットから取り出したスマホを後ろにかざし、赤いポイントが中心に打たれた地図のような画面を見せる。
佐那城 悟
佐那城 悟
囚われのお姫様の場所を示す、魔法の地図……GPS っていう名前のね
彼は一度振り返ってにいっと、試すような笑みを浮かべた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……行きます!
九井原 皐月
九井原 皐月
私も……!
私が佐那城先生の後をついていくと、皐月ねえもゆっくりと立ち上がって私の後ろに続いた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(もし私が事件の犯人じゃないと証明できれば……上嶋くんの誤解が解ける)

本当に自分ではないという確信はないので、一抹の不安はある。
だが、全く身に覚えがないのはおかしい。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(まずは、上嶋くんを……助けたい)
暗闇に差し込んだ一筋の光を頼りに、私は白い月明かりが照らす教会の外に踏み出したのだった。




















佐那城 悟
佐那城 悟
(……こんな近くにあったなんて)
佐那城 悟
佐那城 悟
(食人鬼になる方法)
彼の背中を追う私は、彼の表情が大きく歪んでいたのに気がつけなかった。