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第19話

かろうじて繋がる指先で
日が地平線に落ちて、濃い影が森の中に充満していく。奥に奥に進んでも、森が広がっていくような気がする。
彼の元にたどり着く道のりが、途方もなく遠く感じられた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
上嶋くん……
九井原 皐月
九井原 皐月
夕莉、大丈夫? 疲れてない?
皐月ねえが後方を歩く私を心配して声をかけてくれる。ずっと歩き通しで、足裏が痛むが大したことはない。


上嶋くんを取り戻すためなら、頑張れる。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
ううん、大丈夫だよ。それより、佐那城先生は?
九井原 皐月
九井原 皐月
悟? それなら私の隣に……っていない! また迷子になったの?
九井原 夕莉
九井原 夕莉
隣にいてもはぐれることあるんだ……
九井原 皐月
九井原 皐月
夕莉はそこで待ってて! 私は悟を捜してくる!
あれだけ歩いたというのに、皐月ねえは疲れを感じさせない動きで木の上に飛んだ。太い枝を次々と飛び移って、その姿はあっという間に見えなくなる。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
すごいな……皐月ねえ、まるで忍者みたい
九井原 夕莉
九井原 夕莉
私も……強くならなきゃ。強く、強く……
そう口に出した決意とは裏腹に、私の体は震えていた。
その場にうずくまって、静かに震えが収まるのを待つ。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(まだ、怖いのかな。私)
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(上嶋くんに、強く拒絶されて)
しばらくすると佐那城先生を抱えた皐月ねえが戻ってきて、私は不安を振り払うように立ち上がった。


















◆◆◆◆



昨夜から一睡もせずに歩き通しなので、今夜はキャンプをして休息を取ることになった。食人鬼とはいえ、体力は無限ではない。



大事な局面の前だからこそ、体を休めた方がいいと皐月ねえが気を遣ってくれた。


でも、私はなかなか寝付けなくてテントの外から這い出る。少しでも休んだ方がいいと分かっていた。だけど、胸の奥に溜まった不安が溢れ出してきて落ち着かない。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……佐那城先生?
テントから少し離れた所で、焚き火の小さな光が見えた。甘くていい匂いが漂ってくる。



匂いに誘われるように近づくと、佐那城先生はすぐにこちらに気がついた。
佐那城 悟
佐那城 悟
やあ、夕莉さん。君も眠れないの?
佐那城先生が火にかけた片手鍋をかき混ぜている。鍋の中のミルクティーがなめらかな渦を作っていた。
佐那城 悟
佐那城 悟
紅茶の適度なカフェインは疲労回復やリラックス効果、ミルクに含まれるカルシウムは交感神経の働きを抑えるから、眠れないときにはもってこいだ
佐那城 悟
佐那城 悟
君も飲むといいよ
ミルクティーが注がれ、白い湯気が上るカップを渡される。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……ありがとうございます
ミルクティーを一口飲むと、優しい甘さが口に広がって緊張が解れた。
佐那城 悟
佐那城 悟
皐月が言うには、あともう少しだって。それを飲んで、ゆっくり休んだ方がいい
九井原 夕莉
九井原 夕莉
先生は……どうして私たちに協力する気になったんですか?
佐那城 悟
佐那城 悟
……あんなことをしたのに、ってこと?
多くの食人鬼を集め、自らが食人鬼になるために実験を行っていた。



私も捕らえられて、その狂気と恐怖を味わったけれどその裏には純粋すぎるほどの感情があった。
佐那城 悟
佐那城 悟
僕からしたら、一度裏切ったやつを仲間に引き入れている方が不思議だけど
九井原 夕莉
九井原 夕莉
それは……
佐那城先生が自分の行いを悔いていること、皐月姉への強い思いが分かったからだ。皐月ねえは当初反対したが、私は彼の気持ちに共感してしまった。



叶わなくて、結ばれない運命にある恋を諦められない。



結果としてそれは暴走してしまったが、私もそうなっていたかもしれない。
佐那城 悟
佐那城 悟
今だって、基本的な行動原理は変わらない。皐月と結ばれるためなら、僕はどんなことだってする
佐那城 悟
佐那城 悟
君たちと行動を共にしてるのは、ささやかな罪滅ぼしと利害の一致によるものさ
佐那城 悟
佐那城 悟
夕莉さんと上嶋くんの傍にいれば、僕と皐月が結ばれる方法も分かりそうだしね
佐那城先生の笑った顔は本心なのか嘘なのか曖昧だった。未だに彼は掴み所がないのは、本来の職種が詐欺師だからだろうか。
佐那城 悟
佐那城 悟
君だって、僕と同じだろう? 
どうしても結ばれない恋を叶えたいという点ではさ
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……そうですね。でも、また怖くなった。彼に拒絶されたことを思い出したら……
佐那城 悟
佐那城 悟
怖い? ……っははは。何を言ってるんだそれでも執着してるくせに
笑う彼の前髪の間から皐月ねえにつけられた傷が覗いた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(そうだ、佐那城先生は皐月ねえに傷をつけられて一方的に別れを告げられた)
痛々しい傷跡は今でも生々しく彼の額に刻まれており、彼のショックや恐怖を想像させるには充分だった。
佐那城 悟
佐那城 悟
たった一度、拒否されて傷つけられたくらいで、諦められるのか? 大事な人の手を離すことができるのか?
佐那城 悟
佐那城 悟
少なくとも……彼はあの時、君を離さなかったよ。
佐那城 悟
佐那城 悟
噛みつかれて、傷口がいくつも出来て、血が溢れて、さらに傷痕を爪で抉られて肉が裂かれようとも
佐那城 悟
佐那城 悟
……決して君を離そうとはしなかった
その言葉に私ははっとした。



佐那城先生との戦いで暴走した私を、上嶋くんがずっと抱きしめてくれたこと。

どれだけ傷ついても、私を離さないでいてくれたこと。



そして食人鬼の私を、愛してくれた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……私も、上嶋くんを離したくない
この恋は、きっと片方の思いだけでは叶わない。どちらかが力を抜いてしまったら、簡単に引き裂かれる恋だ。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
私は……必ず、上嶋くんを助けたい
決心を口に出すと、今度は心に温かい力が湧いてくる。



私はまだ、諦めたくない。

自分の潔白を証明したい。
佐那城 悟
佐那城 悟
うん、いい目だ……
佐那城 悟
佐那城 悟
ただ……君と僕、一つだけ違う所を上げるとするなら
佐那城 悟
佐那城 悟
僕の傷はもう、治らないことだ
ぐらりと、頭が揺れて意識がぼやける感覚がした。ミルクティーの効果にしては、眠気が急すぎるような。
佐那城 悟
佐那城 悟
おやすみ、夕莉さん。良い夢を
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……う
どさりと、力なく地面に倒れ込む。
真っ暗な夜のように影が濃くなった彼の顔を見上げると、歪んだ三日月が見えた。
佐那城 悟
佐那城 悟
言っただろう。僕は彼女と結ばれるためなら――どんなことでもやるって
そして意識はそこで途切れ、私は深い眠りに落ちていくのだった。






































◆◆◆◆



深い、深い、闇の奥底から浮かび上がっていくような感覚。






ほんの一筋の僅かな光が差し込んで、指先を伸ばす。



懐かしくて、大切な、誰かの温もりを感じたような気がして――






指先が、光を掠めた。













三好 修吾
三好 修吾
……夕莉?
ゆっくりと、鉛のように重い瞼を開く。



目覚めた所は、殆ど光のない、冷たくて薄暗い場所。



目を凝らすと鉄格子のようなものが見える。まるで地下牢のようだ。
三好 修吾
三好 修吾
ここは……一体どこなんだ?