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第4話

私達は運命の女神に愛されない
夜風がカーテンをなびかせて、街灯の青白い光が窓の外にいる人物を浮き彫りにする。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……陽翔くん
陸下 陽翔
陸下 陽翔
こんばんは、夕莉さん
作りなれた笑顔を貼り付けて陽翔くんは窓の縁に体を乗り上げる。




真っ黒なコートの袖から、一瞬だけ鈍色の光が見えた。


陸下 陽翔
陸下 陽翔
――そして、さようなら
九井原 夕莉
九井原 夕莉
ーーえ
銀色の軌跡を描き、私に振り下ろされたのは鋭利なナイフだった。



あまりにも唐突な出来事に、私は身動きすら取れなかった。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
…………は
ざくりと、

刃が肉を裂いて肩口に突き刺さる。

痛みを通り越した激しい熱のような感覚。

ナイフの刺さった場所から泥のようにどくどくと血が溢れ出した。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……あっ、ぐ
喉が引きつって声にならない音が口から漏れる。
脱力した体がそのまま後ろに倒れて、私はベッドから転がり落ちた。


びちゃっ、と血液がフローリングに飛び散る。血溜まりは沼のように床を侵食していった。
暗い部屋の中で、陽翔くんは私を見下ろしていた。

逆光で表情は見えず、闇と同化したコートを着た彼は人というよりは大きな影のようで、明るい茶色の髪色だけが僅かな光を浴びている。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
な、なんで……
たくさんの気持ちがごちゃごちゃになって紡いだ言葉だった。
どうして今?

どうして陽翔くんは私を?


どうして、どうして。

どうして、何もかも突然奪われなきゃならないの?


抑え込んでいた気持ちが、非日常的な痛みの実感を引き金に溢れ出してくる。
私はただ――
陸下 陽翔
陸下 陽翔
……ごめんね。夕莉さん
彼が私に刺さったナイフを抜く。
ごぽり、と排水溝が詰まったときのような音と一緒に鮮血が吹き出した。



ナイフは輝きを失って、私の血が刃先から滴っている。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
君に恨みがあるわけじゃないけど
陸下 陽翔
陸下 陽翔
君にはーー死んでもらわないといけないんだ



――上嶋くんと一緒にいたいだけなのに。












ドガッッ
陸下 陽翔
陸下 陽翔
なっ……
陽翔くんの体が突き飛ばされて壁際に叩きつけられる。落ちたナイフが床の上に刺さった。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
夕莉っ!!
ぎゅっと拳を握った上嶋くんが息を上げながら私の前に現れた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
うえし……ま、く
九井原 夕莉
九井原 夕莉
きて……くれたんだ
息を満足に吸えず声をうまく発せない私は、血で汚れた手で彼に腕を伸ばす。

開いた窓から入って助けにきてくれたのだろうか。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
一歩……遅かった
上嶋くんは私を見て悲痛そうに顔をくしゃりと歪める。ぐっと噛み切りそうなほど唇を噛むと、彼は私を抱きかかえた。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
ごめん、ごめん……っ 夕莉……
声が震えそうになるのを堪えて、上嶋くんは私を抱きかかえたまま急いで部屋を出た。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
どう……なってるの?
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
ECOが……俺たちを捕らえに来た
バタバタと階段を駆け下りながら、上嶋くんは緊迫した様子で状況を説明する。

黒い影が階段下に姿を現して、こちらに駆け上がってきた。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
うおおおおぉぉぉっ!!
上嶋くんは向かってくる黒コートを足蹴にし、階段下に突き落とす。黒コートは段差に体を打ちつけながら落下して動かなくなった。


上嶋くんは階段から跳躍し、倒した黒コートの上を越えてリビングに向かう。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
皐月さんっ!!
九井原 皐月
九井原 皐月
上嶋くん、こっち!!
リビングは荒らされており、家具は倒れて窓ガラスが割れていた。皐月ねえの周りには何人かの黒コートが横たわっている。


皐月ねえは窓ガラスを開けて庭に出ると、上嶋くんを手招きした。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
夕莉を先に……
九井原 皐月
九井原 皐月
わかったわ
上嶋くんは皐月ねえに私を預ける。頭がくらくらして、喋ろうとすると乾いた喉が張り付く。

皐月ねえは私を抱えたまま軽々と塀を飛び越えた。
道路に出た私達の前に紺色の大型車が急停車し、その窓が開く。
佐那城 悟
佐那城 悟
早く乗って! 奴らを巻けなくなる!
皐月ねえがまっさきに私を車に乗せようとする。私は声を上げて、皐月ねえの服を掴んだ。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
待って……! 上嶋くんがまだ……!
九井原 皐月
九井原 皐月
大丈夫、すぐに連れてくるから先に乗って
揉み合いのようになって皐月ねえの体を弱々しい力で押しのけていると、塀を登ろうとしている上嶋くんが見えた。
上嶋くんは私の方を見つめながら力強く声をかける。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
夕莉、大丈夫だ! 俺もすぐそっちに……
その時、彼の後ろに黒い影が近づいていた――
陸下 陽翔
陸下 陽翔
――行かせると、思う?
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
がっ……!
上嶋くんは背後から忍び寄ってきた陽翔くんに羽交い締めにされ、腕で首を締められる。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
うっ……ぐぅっ!
九井原 夕莉
九井原 夕莉
上嶋くん!!
上嶋くんは息苦しく喘ぎながら、首を締めている腕を解こうと抵抗する。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
……暴れないでもらえるかな
陽翔くんの腕に爪を立てる上嶋くんの前に、ナイフが突きつけられる。
しかし、上嶋くんは自分の腕が傷つくのも構わず抵抗を続けた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
助けに行かなきゃ!
九井原 皐月
九井原 皐月
ダメよ夕莉! あなたは早く逃げなきゃ
皐月姉は私を取り押さえて車内に押し込もうとしてくる。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
どうして……!? 
上嶋くんを見捨てるの!?
泣き叫ぶように声を張り上げる私とは対照的に、佐那城先生は落ち着いた調子で口を開いた。
佐那城 悟
佐那城 悟
彼は……仮に捕まったとしても問題ない
九井原 夕莉
九井原 夕莉
そんな保証は……!
佐那城 悟
佐那城 悟
殺されはしないよ。彼……陽翔くんの狙いは上嶋くんなんだから。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
え……
佐那城 悟
佐那城 悟
彼の目的は上嶋くんを連れて行くこと。そこまで手荒な真似はできないはずだ
話が分からず、私はサイドミラーから佐那城先生の顔を覗く。佐那城先生は心苦しそうにハンドルを握っていた。
佐那城 悟
佐那城 悟
上嶋くんも分かってるはずだ。最悪の場合、囮になって僕たちを逃がすことを……
九井原 夕莉
九井原 夕莉
…………そん、な
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(夕方に別れた後、上嶋くんが佐那城先生と話していたことって……)
どうして、こんなことに。
佐那城 悟
佐那城 悟
思ったより早い襲撃だったのは計算違いだった
陽翔くんに取り押さえられて上嶋くんはもがきながら必死に叫ぶ。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……夕莉っ!! 早く、行けっ!!
九井原 夕莉
九井原 夕莉
そんな、のって……
上嶋くんを置いていけるわけがない。

だって彼は私の大切な人なのに。

一緒にいられる方法を、私たちで探そうってーー


暴れて車に乗るのを拒み続ける私に皐月ねえは怒鳴った。
九井原 皐月
九井原 皐月
夕莉!! 時間がないの!!



私は運命の残酷さを呪った。


どうして、上嶋くんが傷つかなくちゃいけないの?

どうして、何もかも私達を引き裂こうとするの?

何度も何度も運命に問いかけても返ってくるものは何も無くて、ただ私たちを踏みにじっていく。


しぶとく抵抗を続ける上嶋くんの腹部を陽翔くんがナイフの柄で思い切り殴ったのが目に入った。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
おとなしく、しろっ……!
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
ぐぅっ……!
目を見開いて苦しげな声を上げ、彼はぐったりと動かなくなった。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
うえ、しまくん
傷ついた彼を見た瞬間、私の中で燃え上がるような激情が生じる。













ブチリ












頭の中で何かが切れるような音がした。


暴風のような激情が巡って渦巻く力が体中を突き抜けて湧き上がってくる。


運命の女神様。


もしあなたがいるのだとしたらもう願ったり問いかけたりなんかしない。


私はあなたごと邪魔するものを全て引き裂く。


あなたの微笑みなんていらない。


私がーー残酷な運命を殺してやる。