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第9話

月光のヴェール
食人鬼の女王の血筋を引いており、事件を起こしたせいで追放されたと皐月ねえから聞かされた私は確かに動揺した。

でも、この膨らみ続ける不安の正体だけは分からない。
私が昔喰べたという小さい女の子――三好先輩の言っていた事件と重なる点。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(もしかしたら)
その恐ろしい可能性に震えていると後ろで扉が軋むような音を立てて開いた。

私はとっさに振り返り、開いた扉の先に視線を移す。
九井原 皐月
九井原 皐月
あら……隙間風かしら
開いた扉の隙間には誰もいなかった。キィっと小さな音を断続的に立てて扉は揺れている。

私はほっと胸を撫で下ろして、皐月ねえのそばから離れた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
ごめん、皐月ねえ。私まだ……
九井原 皐月
九井原 皐月
いいの、急な話だったでしょう? すぐに受け入れられなくて当たり前よね
少し涙ぐんでいたのか、皐月ねえは目を擦って申し訳なさそうに笑った。
私を女手一つで育ててくれて、ずっと守ってくれて。

それがどれだけ苦しく、過酷な道のりだったか。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
ずっと、私と一緒にいてくれてありがとう。皐月ねえ
九井原 皐月
九井原 皐月
夕莉……私はこれからも
九井原 夕莉
九井原 夕莉
でも、皐月ねえに守らてばっかりじゃダメだよね。私のことは私でやらなきゃ
九井原 夕莉
九井原 夕莉
私だって、皐月ねえのこと守りたい。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
私の……この世に代わりなんていない、たった一人の家族だもん
私は再び皐月ねえを抱きしめる。

食人鬼には体温はないはずなのに、触れ合った部分が温かく感じる。

心地よくて、優しい春の日差しみたいなぬくもり。
九井原 皐月
九井原 皐月
ごめんね、夕莉。私、もっと強いお姉ちゃんでいたかった……
泣き出すのを耐えるような子供みたいに耳元でくぐもった囁きが聞こえた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(やっと……皐月ねえを本当の意味で抱きしめられた気がする)
ずっと大きいと思っていた皐月ねえの体が女性らしい華奢な体付きだったんだと私はやっと気がついた。

私は皐月ねえからひまわりのワンピースの切れ端を受け取る。そして体をそっと離して、彼女の顔を見ないように背を向けた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
少し、一人で考えてくるね
今はそっとしてあげた方が良い気がして、私は部屋を出る。一人でずっと抱え込んで来たのだろう。

私は守られてばっかりだ、助けられてばっかりだ。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(だからもっとちゃんと自分自身と向き合わないと……)
赤黒くなったワンピースの切れ端を見つめると手が震えた。

自分には覚えのない事件。それを忘れているのか、もしくは間違いなのか――




気持ちを整理するために 一階に降りると、そこは聖堂になっていた。

祈りを捧げるための長椅子は壊れており、天井からぶら下がった十字架は欠けている。まるで神様がいなくなった後の世界のように静かだった。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
上嶋くん?
割れたステンドグラスから差し込んだ月明かりの下に上嶋くんは立っていた。

青白い光を見上げる上嶋くんがそのまま月に吸い込まれてしまいそうな気がして、思わず声をかける。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
夕莉……
上嶋くんがあまりにも儚げで、どこかに消えてしまいそうな感じがして、私も月の光の中に入った。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
きっと……ここで永遠を誓い合った人が昔はたくさんいただろうな
祭壇を眺めながら上嶋くんは目を細めた。彼の黒い髪やまつ毛が、月明かりで銀色に輝いている。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
私達も、いつかそんな誓いができる日が来るかな……
私はつい呟いてしまった言葉にはっとして、頬が火照るのを感じた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
あのっ……これはそのっ!
私は慌てふためいて、必死に弁明しようとするがうまく言葉が出てこなかった。

上嶋くんは私と向かい合ってじっと無言で見つめてくる。そしてふわりと、私の頭に薄い布のようなものをかけた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
これ……ハンカチ?
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
違うよ、ヴェールだ
薄いレースのハンカチが眼前で揺れている。まるで、花嫁がかぶるヴェールのように。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(これって……)
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
夕莉、俺はこんなふうに……
ヴェール越しに悲しそうな上嶋くんの顔が見える。彼の手が私の目の前にゆっくりと伸びてきてヴェールに触れた。



トクン、と私の胸が静かにときめく。



そっか、彼も同じ気持ちなんだ。

今こそ神様に問おう。

主よ、結ばれざる私達も、愛を誓ってもいいですか。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
上嶋くん……
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
俺は……本当に、こんなふうに……
私は、初々しい気分になって目を瞑る。

唇をきゅっと引き締めて、花が開く前の蕾のように優しい息吹が触れるのを待ち望んだ。


















上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
永遠を、誓いたかったのに
彼の熱い指先が私の首に絡みつき、握りつぶすように絞め付けられる。



気道が狭まって、息を吸わないまま水の中に飛び込んだような苦しさが襲った。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
う……ぇ……しまくっ…….!?
スカートのポケットから赤黒くなった布の切れ端がひらりと落ちる。

私の首を絞める上嶋くんの瞳は底が見えないほど真っ暗で、深海のような広大な闇が広がっていた。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
――おまえが、俺の妹を殺したのか?