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第43話

崖下のワルツ
上嶋くんを救い出した私はほっとして、ふと半壊した屋敷を見渡す。

そこで私はあることに気がついた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
あれ……?
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……? どうした
九井原 夕莉
九井原 夕莉
さっきまでそこにいたはずのーー彼は?
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
いたって……あいつのことか? あいつは明梨に刺されてーー
私は小さく首を振って答える。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
ううん、あの後少しだけど小さな鼓動が聞こえたの。だから、もしかしたらーー









◆◆◆◆

能美川 明梨
能美川 明梨
ねえ、子供向けの童話でヴィランが崖から落ちる最後が多い理由を知ってる?
陸下 陽翔
陸下 陽翔
……いいや
能美川 明梨
能美川 明梨
それはね、ヒーローの手を汚させないためなのよ
◆◆◆◆
遠くなっていく月に手を伸ばしながら、私はふと、彼とした会話の一片を思い出した。

子供の頃、おとぎ話をモチーフにしたアニメで悪役が崖に落ちていくシーンを何度も見た。
あんな死に方はごめんだと思ったのに、光から遠ざかるように闇に落ちていく今の私は、まさにそのヴィランと同じだった。
能美川 明梨
能美川 明梨
(私は最後まで、ヒロインを羨む悪い魔女だったのかしら)
王子様に愛されることも、殺されることもなく、ただ一人で真っ暗な闇に落ちていく。

幸せになるべき主人公たちの邪魔にならないように、役目が終わったら舞台袖に突き落とされる、ただの悪役。
能美川 明梨
能美川 明梨
ああ……まるでお伽話みたいで
能美川 明梨
能美川 明梨
本当に、嫌ね……
私にはもう運命を受け入れて目を瞑ることしかできない。

私の愛した人がいる月の光から遠ざかってく。私は目蓋を下ろして自分の物語をおしまいにしようとした。










「明梨」









誰かの声が聞こえて、彼を掴めなかった冷たい手に陽だまりのような温かさが灯った。

私は驚いて思わず開くはずのなかった目蓋を開ける。
能美川 明梨
能美川 明梨
……陽翔?
目の前には私の手を取って共に闇に落ちていく陽翔がいた。
能美川 明梨
能美川 明梨
あなた……!? なぜ……
陽翔は変わらない柔らかな笑みを浮かべて、私の目の前に顔を寄せる。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
言っただろう。俺は明梨のために動くって
地獄に続いているような奈落で、彼はじっと私の目を見据えた。
能美川 明梨
能美川 明梨
私は……あなたにずっと酷いことをしていたのよ。最後まで
陸下 陽翔
陸下 陽翔
それでも……俺は、俺を救ってくれた君をただ救いたかっただけだ
陸下 陽翔
陸下 陽翔
最後まで明梨の手を離さないって誓ったんだ
陸下 陽翔
陸下 陽翔
明梨となら、どこへ行ったっていいさ。例え地獄でもね
真っ暗な奈落には似合わない、まるで陽の中で駆け巡る子供のような無邪気な微笑みを向けて彼はそう言った。

ずっと彼は私の側にいたはずなのに、私はーー彼のことを気にしたことなどなかった。
彼の手のひらが、体温がこんなにも温かったことを私は知らなかった。

私がずっとずっと恋焦がれていた、太陽の温もり。

届かない手に入らないと、何度も何度も手を伸ばしていた。

人の愛の温もり。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
また、間に合わなくてごめん
そう言って陽翔は申し訳なさそうに笑った。
能美川 明梨
能美川 明梨
本当に馬鹿ね……
私は彼の背中にそっと手を回す。こんなに堅くて広い背中をしていたのだと、今更彼のことをまた一つ知る。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
ごめん、そう言われても仕方がない
能美川 明梨
能美川 明梨
いいえ……
私は彼の存在を初めて確かめるように彼の頬を撫でた。
能美川 明梨
能美川 明梨
私って、本当に馬鹿よね……
まるでワルツを踊るように彼と抱き合って、私たちは暗闇に落ちていくのだった。













◆◆◆◆

九井原 夕莉
九井原 夕莉
陽翔くんは、やっぱり……
冷たい風が私の頬を撫でて、暗い崖下に向かって吹いていく。
上嶋くんはただ押し黙って俯いていた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……上嶋くん、行こう
私は上嶋くんに声をかけて、彼の肩に軽く触れる。すると、彼はその場に崩れるように跪いた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
上嶋くん!?
彼は突然過呼吸になったような荒い息遣いを繰り返す。そして、彼の口から漏れた小さな呟きに私は耳を疑った。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
喰べ……たい