上嶋くんを救い出した私はほっとして、ふと半壊した屋敷を見渡す。
そこで私はあることに気がついた。
私は小さく首を振って答える。
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遠くなっていく月に手を伸ばしながら、私はふと、彼とした会話の一片を思い出した。
子供の頃、おとぎ話をモチーフにしたアニメで悪役が崖に落ちていくシーンを何度も見た。
あんな死に方はごめんだと思ったのに、光から遠ざかるように闇に落ちていく今の私は、まさにそのヴィランと同じだった。
王子様に愛されることも、殺されることもなく、ただ一人で真っ暗な闇に落ちていく。
幸せになるべき主人公たちの邪魔にならないように、役目が終わったら舞台袖に突き落とされる、ただの悪役。
私にはもう運命を受け入れて目を瞑ることしかできない。
私の愛した人がいる月の光から遠ざかってく。私は目蓋を下ろして自分の物語をおしまいにしようとした。
「明梨」
誰かの声が聞こえて、彼を掴めなかった冷たい手に陽だまりのような温かさが灯った。
私は驚いて思わず開くはずのなかった目蓋を開ける。
目の前には私の手を取って共に闇に落ちていく陽翔がいた。
陽翔は変わらない柔らかな笑みを浮かべて、私の目の前に顔を寄せる。
地獄に続いているような奈落で、彼はじっと私の目を見据えた。
真っ暗な奈落には似合わない、まるで陽の中で駆け巡る子供のような無邪気な微笑みを向けて彼はそう言った。
ずっと彼は私の側にいたはずなのに、私はーー彼のことを気にしたことなどなかった。
彼の手のひらが、体温がこんなにも温かったことを私は知らなかった。
私がずっとずっと恋焦がれていた、太陽の温もり。
届かない手に入らないと、何度も何度も手を伸ばしていた。
人の愛の温もり。
そう言って陽翔は申し訳なさそうに笑った。
私は彼の背中にそっと手を回す。こんなに堅くて広い背中をしていたのだと、今更彼のことをまた一つ知る。
私は彼の存在を初めて確かめるように彼の頬を撫でた。
まるでワルツを踊るように彼と抱き合って、私たちは暗闇に落ちていくのだった。
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冷たい風が私の頬を撫でて、暗い崖下に向かって吹いていく。
上嶋くんはただ押し黙って俯いていた。
私は上嶋くんに声をかけて、彼の肩に軽く触れる。すると、彼はその場に崩れるように跪いた。
彼は突然過呼吸になったような荒い息遣いを繰り返す。そして、彼の口から漏れた小さな呟きに私は耳を疑った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。