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第39話

君の幸せは
陸下 陽翔
陸下 陽翔
もう……やめよう?
私の前で、陽翔くんはこぷりと血を吐きながら彼女に手を伸ばした。
能美川 明梨
能美川 明梨
どうして……あなたが
明梨の緋色の瞳から色が抜け、夜の色と同化していく。狂気をまとった笑顔の仮面は抜け落ちて、彼女の瞳は大きく開かれていた。
明梨は彼の胸からゆっくりと手を引き抜いて、項垂れるように自らの手に視線を落とす。
能美川 明梨
能美川 明梨
血……
べったりと手の平に染みた赤を凝視する。返り血を浴びたブラウスにも目を移すと、まるで今気がついたかのようにその顔が恐れの表情に変わる。
能美川 明梨
能美川 明梨
血、血、血……
能美川 明梨
能美川 明梨
こんなに……
能美川 明梨
能美川 明梨
私の言うことは何でも聞いていたのに……
能美川 明梨
能美川 明梨
どうして、あなたは私を……裏切ったの?
呆然と立ち尽くす彼女から、私はそっと離れて距離を取る。彼女に胸を刺された陽翔くんの顔を伺うと、穏やかな微笑みが見えた。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
ちがうよ
陸下 陽翔
陸下 陽翔
俺はただ何でも明梨の言うことを聞いていたんじゃない
陸下 陽翔
陸下 陽翔
全部……明梨のためにやってきたんだよ
陸下 陽翔
陸下 陽翔
だから、これも今まで通りのことと変わらない
彼は口元に微笑を浮かべたまま、彼女に向かって手を伸ばす。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
なあ……これは本当に明梨が望んでいたことなのか?
陸下 陽翔
陸下 陽翔
手に入らないからって殺して、人から強引に奪って、空っぽの人形に偽物の愛を囁かせる……
陸下 陽翔
陸下 陽翔
それで君は……本当に幸せになれるのか?
能美川 明梨
能美川 明梨
……っ! 私にはもう彼しか残ってないの! あの日、全てを奪われた私にはもう何も残ってない!
能美川 明梨
能美川 明梨
私が欲しいものは……たった一つしかないのよ
髪を振り乱して彼女は自分に言い聞かせるように叫ぶ。彼女の豊かな髪を結んでいたリボンが緩み、髪の毛に引っかかって絡まった。
吐血して血だらけになった口で彼は朗らかに笑う。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
ははっ、じゃあ俺のことなんてどうでもいいよな……それなら良かった
陸下 陽翔
陸下 陽翔
明梨の……失うものにならないから
陸下 陽翔
陸下 陽翔
俺はね……君にとって何であってもいいんだ
彼は刺された胸を押さえ、よろけながら立ち上がり、覚束ない足取りで彼女の前に歩み寄る。彼は絡まった彼女の髪にそっと触れて、優しく梳かした。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
君に命を救われたときから、俺はずっと君のものなんだから
能美川 明梨
能美川 明梨
あなた……そんな理由でずっと
彼女はただじっと彼を見つめていた。真っ白な彼女の顔が月に照らされて青白くなり、血の気がなくなった肌は海に沈んだ陶磁器のようだった。
彼女がぼんやりと陽翔くんを見つめると、彼は満足そうに笑う。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
ああ……俺、初めて
陸下 陽翔
陸下 陽翔
君の目に映れた――
彼の手が明梨のリボンを解いて、力なく垂れ下がる。風に煽られて、彼女の髪は夜空に大きく広がって波打った。
陽翔くんはそのまま彼女の胸に倒れ、まるで母親の腕の中で眠りにつく子供のような安らかな顔をしていた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(陽翔くん……)
彼は決して、私を守ったわけじゃない。
これ以上、彼女を不幸にしないために、手を汚させないようにしただけなのだ。
能美川 明梨
能美川 明梨
あ……
彼女は陽翔くんの体にそっと腕を回す。彼の体をなぞって何かを確かめるように、腕を、背中を、頭を撫でるが、彼女が触れた部分は全て血の色に染まった。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(今がこの不毛な争いを止める最後のチャンスかもしれない)
明梨は喉を引きつらせたようなか細い声を出し、しゃくりあげていた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
上嶋くん……今なら彼女を説得できるかも。この悲しい戦いを終わらせられる……
もう誰も傷つけたくないーーそう決心を固くして上嶋くんの方を振り返った。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
上嶋くん……?
しかし彼は何の反応も示さず、糸の切れた人形のように俯いていた。その顔にはどんな感情も存在せず、瞳には暗いトンネルのような闇が広がっていて、何も映していなかった。
背後で彼女のすすり泣きが、甲高い笑い声に変わる。
能美川 明梨
能美川 明梨
ひっ、ひっ……ふ、ふふ、あはははははははははは!!
能美川 明梨
能美川 明梨
……私には、もうたった一つしか残ってないって言ったでしょ。陽翔
能美川 明梨
能美川 明梨
さあ、『こっちに来て、幸寛』
彼女が声をかけると同時に、彼の足は一歩、また一歩と明梨の元に向かって歩き出した――