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第45話

君の体温を忘れたくない
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
俺も、夕莉と同じ食人鬼になる
一瞬、彼の言った言葉の意味が分からなかった。

きっと、それだけ予期せぬ言葉だったからだ。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……それが、どういう意味か分かってる?

焦げ付いた臭いがした。鼻の奥にまで残りそうな焼け焦げた臭いが風にさらわれて辺りに充満していた。

半壊した屋敷から立ち上る黒い煙が夜を焦がし、白い星々が見えなくなる。

上嶋くんの視線に耐えられなくなって、私は目を逸らした。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
君の大事な家族を……奪った生き物だよ? 人間じゃない、化け物
九井原 夕莉
九井原 夕莉
上嶋くんだって見たでしょ? 私の暴走した姿。私は……私達はどこまでいってもそういう生き物なんだ。人を喰べなきゃ生きていけない
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……分かってる
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
確かに食人鬼が憎かった
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
俺から全てを奪っていった食人鬼が憎くてたまらなくて、殺してやりたいほどだった。ただ復讐するためだけに生きてきた
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
食人鬼に全て奪われたはずだった……でも俺に希望を与えてくれたのは夕莉だったんだ
上嶋くんは苦しげに荒い息を吐き、弱々しい力で私の手を包み込む。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
憎しみと怒り以外何もなかった俺を、人間にしてくれたのはーー夕莉、お前なんだよ
私の冷たい手に上嶋くんの温度がほのかに伝わってきて、涙が出そうになった。

私はこの手に救われたのに、この温かさを奪うのは――私なの?
私はとっさに彼の手を振り払う。彼の手が私と同じ温度になっていくのが嫌だった。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……上嶋くんだって、本当は分かってるでしょ? 私がどういう存在か
九井原 夕莉
九井原 夕莉
人を喰べるんだよ? 誰かの友達だった人を、恋人だった人を、家族だった人を喰べて生きていくんだよ?
九井原 夕莉
九井原 夕莉
君は……人間だから私よりも分かるでしょ? それが許されないことだって……
目尻に熱が溜まって、いくつもの雫が頬を伝っていく。本当は泣きたくなんてない。今言ってることは当たり前の事実なんだ。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
私達はきっと……この世にいてはいけないんだ
九井原 夕莉
九井原 夕莉
君のことが好きだよ。でも、こういう生き物だから君のことを喰べたいって思っちゃうの
九井原 夕莉
九井原 夕莉
大好きなのに、愛してるのに、それでも喰べたいって思っちゃうの
九井原 夕莉
九井原 夕莉
本当は喰べたくないのに、君のことを傷つけたくないのに
泣きじゃくって、声が震えるのも気にせずに私は叫ぶように言う。そうじゃないと、思うように言葉が出てこないから。

無理やりにでも絞り出さないと、伝えられないから。

喉が引き裂かれそうになっても、私は叫ぶのを止めなかった。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
本当は……こんな生き物なんて生まれるべきじゃなかった
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……食人鬼なんかに生まれたくなかった
涙で濡れた世界は何も見えなくて、すべてが夢の景色のようにぼやけていた。
だから目の前にいる上嶋くんがどんな顔をしているのか分からない。
九井原 皐月
九井原 皐月
……夕莉
皐月ねえの優しい声がして、私に近づいてきたのが分かった。焼け焦げた臭いが漂う中で、皐月ねえのジャスミンのような香りが鼻先を撫でる。
九井原 皐月
九井原 皐月
もし上嶋くんを……なら――
そっと私をなだめるような声で、皐月ねえは私の耳元で囁いた。
九井原 皐月
九井原 皐月
後は……夕莉に任せるわ
そう言って皐月ねえはさっさと私の傍から離れていった。
三好 修悟
三好 修悟
上嶋……
三好先輩は上嶋くんに何か語りかけているようだった。ピントが合わない世界の中で、上嶋くんが首を横に振っているように見える。
上嶋くんと向き合うために、私は何度も涙を拭う。だけど、拭っても拭っても涙が溢れてきて仕方がなかった。ああこれじゃ、君の顔すら見えない――
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
夕莉
突然、上嶋くんに抱きしめられて目を見開く。小さな灯火のような、今にも消えてしまいそうな体温だった。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
本当は――どんな建前も、理由も関係ないんだ
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
俺はただ夕莉が好きで、一緒にいたいんだ
九井原 夕莉
九井原 夕莉
上嶋くん……
君の温度を僅かでも逃したくなくて、私は上嶋くんを抱きしめ返す。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(ああ……温かいなあ……)
九井原 夕莉
九井原 夕莉
分かった……私は――














上嶋くんの白い項に一つだけキスを落として、私はその白磁の肌に噛み付いた。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
夕莉……!? 何を……












さっき皐月ねえに言われたことを思い出し、私は女王の力をコントロールするのに集中する。

『もし上嶋くんを人間にしたいなら――女王の力を使って食人鬼の血を吸い出して』

上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
痛っ……うっ……ぐあっ……
彼の中の血に混じっている女王の因子を感じる――それだけを私の体内に取り込むイメージで血を吸い出す。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
夕莉っ……俺は……!
上嶋くんは苦しみ悶えながら私にしがみついた。私の背中に爪を立てそうになるのを耐え、だんだんと虚脱していく体に抗うように、腕を回して必死に私を抱きしめようとする。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
絶対に……離さない……一人で、行かせないっ……!
私も彼の背中を一度強く抱き返して、離した。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
さようなら、上嶋くん
そんな優しい君だから、私は君を好きになった。

何もかも投げ出してくれるくらい愛されて嬉しかった。

こんなふうに愛されるなんて、夢にも思っていなかったから。

でもね、上嶋くん。君が全部を私にくれるほど愛しているなら、私だって――

君に一番幸せになってほしいって願っているんだよ。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
君は、人として生きて――