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第44話

君と同じ痛み
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
喰べ……たい
俯いた上嶋くんが喉を押さえながら小さく呟く。彼は顔を上げ、脂汗を浮かべながら荒い息を吐いた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
上嶋くん……!
彼が呟いた言葉を聞いて心がざわつく。

上嶋くんの様子が、食人鬼が食人衝動に苦しみ喘ぐ様にあまりにも似ていて――ありえない可能性が頭によぎる。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
喉が渇いて……仕方がないんだ。それに飢餓感に体を掻きむしってしまいたくなる
九井原 夕莉
九井原 夕莉
それって……
食人鬼である私自身にも覚えのある感覚――どうして? 血を分け与えた女王はもう、いないのに――
九井原 皐月
九井原 皐月
彼の……食人鬼化が進んでいるわ
冷たく肌を刺す風のような声がして振り返る。皐月ねえは涙の痕ができた顔でゆっくりと歩み寄ってきた。
九井原 皐月
九井原 皐月
明梨は――彼を食人鬼にして支配しようと血を分け与えた
九井原 皐月
九井原 皐月
彼女がいなければ上嶋くんが操られることはないでしょう――だけど、食人鬼になるのは止められない
九井原 夕莉
九井原 夕莉
そんな……
上嶋くんが、もし私と同じだったら――そう考えたことがないわけではなかった。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(でも……今のわたしは望んでない)
好きな人に、私と同じ苦しみを味わってほしくない。影に生きて、誰にも知られずに死んでいくような異形の存在。

それがきっと私達食人鬼が辿る運命。
上嶋くんに陽の当たらない世界を歩いてほしくない。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(きっと……何か方法があるはず)
まだ、まだきっと何かあるはずだと私は自身を奮わせる。私が諦めたらダメだ。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
上嶋くん、大丈夫。必ず私が食人鬼にさせな――
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
このままで、いい
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……え?
予想しなかった言葉に私は面食らう。上嶋くんは覚束ない足取りで立ち上がり、苦痛に歪んだ顔で無理やり口角を上げた。
震えながら私の手を取って、彼はゆっくりと言葉を紡ぐ。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
……夕莉は今までこんなに苦しんでいたんだな
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
腹の奥で暴れる衝動を抑えようと内蔵が突き破られそうなほど痛くて
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
喉の渇きを誤魔化そうとすると口の中まで干からびて舌を噛み切ってしまいたくなる
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
頭の中が、喰べることでいっぱいになって理性なんて消し飛んでしまいそうだ
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
夕莉はずっと……この感覚に耐えながら俺を食べないでいてくれたんだろ……?
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
こんな……際限のない生き地獄みたいな心地を感じながらも俺を好きでいてくれたんだろ……?
彼の瞳が私を真っ直ぐと捉える。澄み切った泉のような、底まで透けそうな彼の瞳に見つめられると私は何も言えなくなる。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
もう、一人で苦しまなくていい……
九井原 夕莉
九井原 夕莉
上嶋くん……それって……
いつも私を安心させてくれる穏やかな微笑みを浮かべて、上嶋くんはこう言った。
上嶋 幸寛
上嶋 幸寛
俺も、夕莉と同じ食人鬼になる