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第16話

君に、会いたい
薄暗い森の中を、私たちは掻き分けるように進んで行った。
夜が明けて太陽が空に昇っても、鬱蒼とした木々が光を遮っている。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(上嶋くん……無事でいて)
崖や斜面などの道が多くなり、私たちは車を置いて徒歩で目的地を目指すことになった。
佐那城 悟
佐那城 悟
はぁっ、はぁっ……ちょっと待って……
九井原 皐月
九井原 皐月
もう、悟ったらだらしないわね
人間の佐那城先生にはきつい道のりだろう。はあはあと、肩で息をしながら何とか険しい山道をついて来ていた。
九井原 皐月
九井原 皐月
仕方ないなあぁ……
引っ張ってあげるから。ほら、手貸して
佐那城 悟
佐那城 悟
悪いね……ってうわ!
九井原 皐月
九井原 皐月
きゃっ!
佐那城先生が皐月ねえの手を掴んだ瞬間、彼の足が出っ張った木の根っこに引っかかって転倒する。
そのまま一緒になって、二人は斜面を軽く転がっていった。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
二人とも! 大丈夫?
佐那城 悟
佐那城 悟
うーん……なんとか。皐月は平気?
九井原 皐月
九井原 皐月
いたた……大丈夫、って悟! 
どこ触ってるの!
佐那城 悟
佐那城 悟
いたあ!!
佐那城先生が皐月ねえを抱きかかえるようにして下敷きになっていた。その密着した体勢に気が付いた皐月ねえが、佐那城先生を叩いて慌てて退く。
佐那城 悟
佐那城 悟
叩くのはひどくない!?
九井原 皐月
九井原 皐月
普通あんなところでつまずかないわよ! 
悟のドジ! なんで会ったときからそうなの!?
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(佐那城先生のドジっ子属性って演技じゃなかったんだ……)
まるで子供の喧嘩みたいに言い合う二人はなんだか微笑ましい。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(佐那城先生、皐月ねえのこと咄嗟に庇ってたし)
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(やっぱり、まだ皐月ねえのことが……)
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(皐月ねえは、佐那城先生のことどう思ってるんだろう……?)
九井原 皐月
九井原 皐月
もう、さっさと行くよ!
佐那城 悟
佐那城 悟
昨夜はめそめそしてた癖に、ずいぶんと強気だなぁ……
九井原 皐月
九井原 皐月
うるさい
佐那城 悟
佐那城 悟
痛っ!!
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(あっ……
 皐月ねえの耳、赤くなってる)
九井原 夕莉
九井原 夕莉
……二人とも素直じゃないなあ
九井原 皐月
九井原 皐月
え?
九井原 夕莉
九井原 夕莉
なんでもない
皐月ねえが佐那城先生の腕を引っ張って戻ってきた。
小言を言い合いながら、二人は私の前を歩いて行く。
二人を見ていると、私は羨ましくなってしまう。
上嶋くんと、もう一度会いたい。

会って、手をつなぎたい。お喋りしたい。

ずっと、隣を歩いていたい。
そんな細やかなことでさえ、愛おしく思える。
例え、底のない奈落のような溝が私たちの間にあったとしても、どうしても彼に手を伸ばしたいのだ。



きっと、この消えない思いだけが私と彼の唯一の架け橋だと信じて。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(君に……会いたいよ)
俯いて、ざくざくと足で枯れ葉を踏みしめながら上嶋くんのことを考えていた。



だが、急に視界が暗転する。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
!?
誰かに抱え上げられて木陰の中に連れ込まれた。叫び声を上げようとした口が手のひらで塞がれる。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
抵抗しないで、手荒な真似はしたくない
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(陽翔くん……?)
耳元で、静かに囁かれる声。抑揚を欠いた、感情の起伏を感じさせない声音だった。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
君と取引がしたいんだ
彼は私を胸の中に閉じ込めるように拘束する。
そして、ナイフを私の喉元に突き付けた。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
断られたら、君を殺さなくちゃならない
私は少し顔を上げて、彼の表情を盗み見る。


虫も殺せなさそうなほど優しい笑みをしていた彼は、今は仮面を付けているかのような感情の読み取れない顔をしている。


しかし、ナイフを突きつける手がわずかに震えている。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(陽翔くん、あなたは……)
まるで感情と行動がぶつかり合って苦しんでいるかのようなその震えは、私の首に小さな切り傷を付けた。
とろり、と一筋の血が首に伝う。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
お願いだ……俺に、君を殺させないで