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第17話

消えない傷痕をなぞって
陸下 陽翔
陸下 陽翔
お願いだ……俺に、君を殺させないで
喉奥から絞り出された声は悲痛に震えていた。しかし、しっかりと首筋にナイフを突きつけている。
まるで懇願のように見える脅迫だった。
当てられたナイフの冷たさと溢れ出した血の熱が混じり合う。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
君は……私を殺さないよ
私は不思議と落ち着いていて、はっきりと言葉を紡ぐことができた。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
それは……手を引いてくれるってことでいいのかな?
九井原 夕莉
九井原 夕莉
いいえ、私は上嶋くんを助けに行く
ぐっと、ナイフがさらに首の柔らかい部分に押し付けられて皮膚に食い込んでいく。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
じゃあ……
彼のナイフを持つ手が止まって、一瞬の静寂が訪れる。一呼吸おいて、彼は口を開いた。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
……なんで?
九井原 夕莉
九井原 夕莉
だって君は、あの時私を殺せなかった
彼が私の部屋に襲撃しに来た夜、油断していた私は彼に殺されていてもおかしくなかった。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
思い返せば……あのとき私は無防備で、何も出来なかった。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
だから……ナイフを持った君は、簡単に私の心臓を刺すことができた
九井原 夕莉
九井原 夕莉
でも……君は私を殺さなかったんだよ
私はブラウスのボタンを開けて制服の肩口をひっぱり、彼に刺されたであろう部分をさらけ出す。傷は女王イヴの血のおかげか、跡形もなくすっかり治っている。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
……っ
腕の力が緩んだ拍子に、私は彼の腕の中から抜け出す。そして、彼を木の幹に押さえつけた。



彼は抵抗しながら声を荒げる。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
ちがう! 俺は君を殺せる。明梨のためならなんだってできる……!
陸下 陽翔
陸下 陽翔
彼女の望むことなら何でも叶えてあげたい! 例え振り向いてくれなくても、彼女が幸せになれるなら……
陸下 陽翔
陸下 陽翔
……俺は彼女の人形になっても構わない
私は彼のコートの首元にあるボタンを外し、目を細めた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
陽翔くん……君はれっきとした人間なんだね
九井原 夕莉
九井原 夕莉
私のつけた傷が残ってる
暴走した私が力任せに爪を突き立てた痕が、彼の首筋に赤黒く刻まれていた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
ずっと、君が食人鬼か人なのかよく分からなかった
普通の食人鬼であっても、体の再生によってここまで痛々しい傷痕は残らないだろう。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
君は迷ってるんじゃないの? 自分のやってることが正しいのかどうか、分からないんじゃないの?
九井原 夕莉
九井原 夕莉
今なら……まだ戻れる。引き返せるのは……君の方だよ
九井原 夕莉
九井原 夕莉
三好先輩のことは……今だって許せないけど
憎たらしいのに、可哀想で

あんなに笑っていたのに、悲しそうで。

九井原 夕莉
九井原 夕莉
なによりも……三好先輩を撃った君が、そんなに苦しんでるのが許せない……
三好先輩を、家族を、上嶋くんを、全てを私から奪おうとする君に怒りが湧くのに、中途半端な迷いで苦しみながら私にナイフを振り下ろそうとする君が許せない。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
でもね……私は前に進みたい
だから
私は彼を解放して、立ち上がる。
そして彼に、陽翔くんに、ゆっくりと手を差し伸べた。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
君は……本当にこのままでいいの?
はっとした表情で、陽翔くんは私を見上げた。
私を通して、どこか遠くを見ているような、何かを思い出しているような、そんな表情。

彼は束の間の夢想から覚めて、すぐに体勢を整える。
ばっと木の上に登って、私から距離を取った。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
俺は……明梨のために生きるって決めたんだ
そう言って彼は私に背を向け、淡々と語り出した。
陸下 陽翔
陸下 陽翔
……三好くんのことだけど
陸下 陽翔
陸下 陽翔
俺が撃ち込んだ弾丸は、元は君を仕留めるためのものだった
陸下 陽翔
陸下 陽翔
あれは……食人鬼の力を抑制する代物なんだ
陸下 陽翔
陸下 陽翔
半鬼半人の彼なら、いずれ目が覚めるだろう
九井原 夕莉
九井原 夕莉
待って!
陽翔くんはそう言い残して、振り返りもせず暗闇の中へと消えて行った。





















◆◆◆◆
陸下 陽翔
陸下 陽翔
(一瞬だけ……彼女が昔の明梨のように見えた)
陸下 陽翔
陸下 陽翔
(明梨は……俺が好きだった明梨は……)
唇を噛みしめながら、俺は明梨との出会いを思い出すのだった。