北斗は私の家まで送ってくれて、

荷物を持ってくれていたので家の中まで入ってくる。

そんなこと、入ることに何も思うことは無かったけど

リビングに入れば見たくなくても見えてしまう

黒い額縁の中で笑っている母の姿。

『お母さん...私もそっちに行きたいよ...』

言葉に出せば思っているよりも

ずっしりと重りのように全身にのしかかる。

目からは涙が溢れて、

私の足はキッチンに向かった。

『お母さん。待っててね...』

暗い中。

ほんの僅かな光を反射するその刃物を

首目掛けて滑り下ろそうとした時

ｷﾞｭｯ

『え、』

誰かがわたしの腕を掴んだ。

そんなこと出来るのはあの人しかいなくて、

北「何やってんだよ。」

その北斗は怒っているはずなのに、

北斗の目を見ればその奥は辛そうな目をしていた。

そのくらい、北斗は私のことを大切に見続けてくれていた。

『止めないでよ、』


北「止めるに決まってんだろ。」


『私はお母さんのところに行くの、』


北「行かせない。」


『お願い。行かせて...ｸﾞｽﾞｯ』


北「何でそんなに逝きたいんだよ。」


『もう、私には生きる意味が無いの。
  お母さんもいなくなった。
  大我にも振られた。
  そんな世界に私は生きる意味が無くなったの。』


北「じゃあ、俺がお前の生きる理由。
   今から言うからその為に生きろ。」



『なに、？』


北「俺の為に生きろ。」


『え、？』


北「俺の生きる理由はあなたがいるから。
   俺の生きる理由を勝手に無くすな。」

北斗のその言葉は今の私に凄く響いた。

だって、何の為に私は生きているのか、

誰かの為にもなって居ない私なのに

北斗は私こそが自分の生きる理由だと言ってくれたことが

どれだけ嬉しかったか...

北「分かったか？」


『うん。』


北「もうこんなことするなよ？」


『ごめんなさい。』


北「心配だから今日は泊まらせてもらう。」


『私も、今日は1人じゃ嫌だ。』


北「丁度良かったね笑」

北斗は私が握っていた刃物を下ろして

私をそっと包み込んだ後、

お風呂を沸かしに行ってくれたり

寝る準備をしてくれた。