第9話

“ 俺は何でも知ってるんです。”
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2020/04/01 22:15
先生
流石、茉白さん。
じゃ、最後は茉白さんに頼もうかな。
悪い汗が吹き出る。

寄りによって、最後の問題に当たるのは無しにして欲しかった。

それなら、次のページの問題の方がマシなのに。
茉白 サツキ
っ…
『ギギギッ…』

椅子の脚と教室の床が擦れる音をさせながら、私は椅子を引いた。

当てられた以上、何らかの答えは出さないといけない。



けど、『茉白 サツキは優秀』という固められたイメージが、確率された謎のプライドが、

私に「分からない。」という言葉を発せさせない。



(立ち上がった以上、黒板に答えを書かないと…)


白い黒板の前に立つと、クラスの視線が私の背中に突き刺さる。

先生は教室の後方へと向かい、遠目で私の解答をじっと待っている。
茉白 サツキ
『キュポッ…』

マーカーの蓋を取り、ホワイトボードにペン先を付けた時だった。
吉田 ハギ
因みに、その問題の答え間違ってるよ。
茉白 サツキ
っ、、
私のペン先はその瞬間に動かなくなった。

真ん中の問題を解き終えた彼は、何故か席に戻らずに私の横に立っていた。
茉白 サツキ
吉田 ハギ
…えっと、茉白サン?
茉白 サツキ
吉田 ハギ
おーい、聞いてますかー?
茉白 サツキ
吉田 ハギ
もしかして、分からない感じですかー?
クラスメイト達に背を向けて並ぶ彼と私。

彼の声は依然としてからかい混じりだった。
茉白 サツキ
彼は少し身体を寄せると、私の耳元で囁いた。
吉田 ハギ
…もしかして、本気で分からない感じ?
私はどうする事も出来なくて、下唇を噛んだ。
吉田 ハギ
あー…えっと、まじか。
彼はバツが悪そうに私の問題の式を書き始める。

それからすぐに「ここ展開して、Aで求めたやつもDと同じような形にして。」と指示を出した。

私は恥ずかしさと屈辱を押し殺して、言われた通りに計算した。


彼が指示通り進めたところ、今まで自分が頭を抱えて取り組んでいたとは思えないほど、すんなり解き終わった。

勿論、先生からも正解の大きな丸を貰った。






吉田 ハギ
ノートに解いてたじゃん。
茉白 サツキ
あれは合ってるか分からなかったし、結果的にハギに『間違えてる』って言われたから余計に分かんなくなったの!
吉田 ハギ
でも、あんな序盤でつまづいてるとは思わなかったし?
茉白 サツキ
うるさい。
吉田 ハギ
それにあれだけ一生懸命、予習してたら解けると思うじゃん?
茉白 サツキ
なっ、なんで知ってるの?!
吉田 ハギ
俺はサツキの事なら何でも知ってるんです。
茉白 サツキ
出会ってから、まだちょっとしか経ってないよ。
吉田 ハギ
私がそう言い返すと、ピタッと会話が止まった。

今まで滑らかに続いていた会話の流れがいきなり止まれば、私だって流石に気になる。
茉白 サツキ
え、何?
生徒会の活動報告会の下書き原稿から目を離し、ハギの顔を見た。

ハギは私の手元を見ているだけで、私と目を合わせても、
吉田 ハギ
…いーや?
と、言ってドアへと視線を向けた。
茉白 サツキ
吉田 ハギ
黙ってドアの方を見つめる彼を認識すると、私の手は再び原稿を書く為に動き始める。

『カリカリッ、カリ…』


(そういえば…)


頬杖をつくのが癖なのか、

彼はぼんやりとドアの磨りガラスに映る陸上部員が行き交う姿を見ていた。


(ハギがあれだけ賢いって事は、塾とか行ってたりするの…?)

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