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繁華街の大通りを抜けると、人混みが少し落ち着いた場所にある2階建てのお洒落なお店の前に来た。
彼に促されて、お店のガラス扉を押すと頭上でアンティーク調のドアベルが鳴った。
店内は白が基調とされた、爽やかな仕様になっていた。
日の光がお店の玄関まで届くぐらいの大きな吹き抜けの天窓。
1階はカフェになっているらしく、
立て看板と白いプランターに並べられた草花達が店内に飾られていた。
玄関前には螺旋階段が2階へと続いていたが、一体何があるのかは分からなかった。
ハギは私の手を引いて、1階の奥のテーブル席へと誘導する。
彼は人差し指を2階へと向ける。
所々詳細が欲しいところはあるが、無理矢理彼について行くのもあまり良い気はしないので、仕方なく承諾した。
席に着くなりバッグを下ろして、自宅のノートパソコンを取り出し、クリアファイルに綴じられた生徒会資料もテーブルの上に滑らせた。
元々、メッセージで[見せたいものがある]と言ったハギは、[別に作業しててもいーから、来て]と付け加えてもいた。
私はパソコンの立ち上げを待つ中で、椅子に座ったままハギの顔を見上げた。
彼は私に背を向けると螺旋階段の方へと歩き出す。
私はキーボードの上に手を置きながら、彼の後ろ姿を見つめた。
螺旋階段に足をかけた彼が私が見ている事に気付くと、ひらひらと手を振り出す。
(まぁ、これくらいはハギに対して緩くなっても良いか…)
私も手を振り返した。
彼が居なくなった不意に現れた店員に驚いて、
私は慌ててメニューを開く。
目に飛び込んだ紅茶を適当に選択した。
『因みに俺のオススメはベリー添えのパンケーキ。』
この後、私のテーブルに運ばれて来たパンケーキと紅茶は、
今まで口にしてきたパンケーキと紅茶とは比べ物にならないくらい、
美味しかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。