第19話

“ 今は無いよ。”
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2020/04/03 00:07








繁華街の大通りを抜けると、人混みが少し落ち着いた場所にある2階建てのお洒落なお店の前に来た。
茉白 サツキ
このお店に入るの?
吉田 ハギ
うん。
茉白 サツキ
私に見せたいものがこのお店にあるって事?
吉田 ハギ
“ 今は ” 無いよ。
茉白 サツキ
???
吉田 ハギ
ま、いーから入って。
彼に促されて、お店のガラス扉を押すと頭上でアンティーク調のドアベルが鳴った。



店内は白が基調とされた、爽やかな仕様になっていた。

日の光がお店の玄関まで届くぐらいの大きな吹き抜けの天窓。


1階はカフェになっているらしく、
立て看板と白いプランターに並べられた草花達が店内に飾られていた。


玄関前には螺旋階段が2階へと続いていたが、一体何があるのかは分からなかった。



ハギは私の手を引いて、1階の奥のテーブル席へと誘導する。
吉田 ハギ
はい、好きなの頼んでいーから。
因みに俺のオススメはベリー添えのパンケーキ。
茉白 サツキ
ハギは私にパンケーキを見せたかったの?
吉田 ハギ
さぁ?どうでしょう?
ま、俺にも少し用事があるから、ここで適当に時間潰してて。
茉白 サツキ
ハギは? 何処に行くの?
吉田 ハギ
上。
彼は人差し指を2階へと向ける。
茉白 サツキ
…分かった。
所々詳細が欲しいところはあるが、無理矢理彼について行くのもあまり良い気はしないので、仕方なく承諾した。


席に着くなりバッグを下ろして、自宅のノートパソコンを取り出し、クリアファイルに綴じられた生徒会資料もテーブルの上に滑らせた。


元々、メッセージで[見せたいものがある]と言ったハギは、[別に作業しててもいーから、来て]と付け加えてもいた。
吉田 ハギ
うわぁ、本気で作業するとは…期待を裏切らないんですね、茉白サン。
茉白 サツキ
どうも。
吉田 ハギ
俺も用事終わったら直ぐに手伝うから。
私はパソコンの立ち上げを待つ中で、椅子に座ったままハギの顔を見上げた。
茉白 サツキ
何言ってるの、『髪を元に戻してピアスもやめたら』って話でしょ?
吉田 ハギ
はいはい、分かってますよー。
彼は私に背を向けると螺旋階段の方へと歩き出す。

私はキーボードの上に手を置きながら、彼の後ろ姿を見つめた。


螺旋階段に足をかけた彼が私が見ている事に気付くと、ひらひらと手を振り出す。


(まぁ、これくらいはハギに対して緩くなっても良いか…)


私も手を振り返した。


店員
いらっしゃいませ。
ご注文は何かお決まりですか?
彼が居なくなった不意に現れた店員に驚いて、
私は慌ててメニューを開く。

目に飛び込んだ紅茶を適当に選択した。
店員
ご注文は以上で?
茉白 サツキ
あ、じゃぁ…


『因みに俺のオススメはベリー添えのパンケーキ。』

茉白 サツキ
“ ベリー添えのパンケーキ ” で。
店員
かしこまりました。


この後、私のテーブルに運ばれて来たパンケーキと紅茶は、

今まで口にしてきたパンケーキと紅茶とは比べ物にならないくらい、



美味しかった。

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