ふわっと後ろから隠された目元にびっくりして、また間抜けな声が飛び出た。
『カタンッ』
手に持っていた携帯がホームの床に滑り落ち、コンクリートとぶつかった音をたてる。
真っ暗だった視界が急にパッと明るくなって、思わず目を細める。
(携帯、携帯…)
落ちた携帯を探そうと下を見下ろすと、既に彼が持っていた。
(ま、またそんな事言って…)
彼から携帯を受け取ると、私は早速本題へと移ろうと切り出した。
(『寂しい』…何が?)
彼が手を差し出す姿はもう何度も見た。
そして、いつも分かるのは “ 女の子慣れ ” しているということ。
手を繋ぐ事にどんなに抵抗があったとしても、残念ながら私の場合は繋いだ方が良いのは経験済みだ。
“ 場所が場所だから ”、という圧倒的な理由のせいで。
私の手を優しく握ると、今度は私の崩れた前髪に触れた。
私の前髪をさっと直した後、彼は春の空気に紛れてふわっと笑う。
茄子紺色をベースに白い小花が散らされる生地。
フレアスリーブに結ばれたリボン、
普段は選ばないVネック。
腰より少し高い位置できゅっと閉められたワンピース。
足元には少しだけレースアップされたキャメルのヒールパンプスを履いていた。
(それは格好の事だよね? 前に言ってた、『好きなら『好き』って言う』ってやつ?)
ここ数日間で学んだが、深く考えると彼の思うツボな気がするので、
簡単な言葉で、且つ言われて嬉しい言葉で済ませる答えに行き着いた。
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駅から出た私達は繁華街の大通りへと出る。
“ 場所が場所だから ”。
流石に部屋着で行くわけにもいかないし、
迷いやすい私は誰かに引っ付いておかないといけない。
特に友達と来た際、人混みを歩く時は腕を組ませて貰っている。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。