『スッ…』
彼の腕がゆっくりと私を包む。
彼の顔は私の肩に埋められたままで、どんな表情をしているのかは全く見えなかった。
『ギュッ』
彼はパッと顔を上げると、おでこを合わせて私の目を見つめる。
彼は笑いながら、もう一度私の肩へと顔を埋めた。
彼の吐息が私のブラウスの上からでも分かる。
重ねられた手から感じる温度、
私の肌の上で流れる吐息、
彼の髪が私の首を擽る感覚等、
今彼から感じる全てが愛しく思えてしまった。
(…大事に、したい……今度は、私が守り、たい………)
彼は顔を一度上げて、それから目を閉じて私に身体を預けた。
『ユサッ…』
こてんと肩に乗せられた頭の重みが、
何故か私の胸を騒ぎ立てる。
皆が知ってる、
人気者の彼の顔。
それは私も知ってる、
彼の顔。
でも、この弱々しい彼の姿は
きっと私だけが知ってる彼の顔────
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!