第4話

“ 言う事、聞いて ”
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2020/03/31 17:35
茉白 サツキ
とりあえず、そこは駄目です。
退いて下さい。
吉田 ハギ
なんで?
茉白 サツキ
そこは生徒会長の席です。
吉田 ハギ
ふーん。
私は会長席から退かない彼の前まで歩いて行き、座っている彼を見下ろした。
吉田 ハギ
じゃ、退かない。
茉白 サツキ
吉田 ハギ
ね、俺がピアスやめて、髪色も元に戻せば良いって事でしょ?
茉白 サツキ
退いて下さい。
吉田 ハギ
退かない、教えてくれるまで退かない。

(何、この人。)


彼の笑みには意図的なのか、単なる暇潰しにからかわれている様に感じる。


(あー…もう、どうでもいい。)
茉白 サツキ
…そう、そういう意味で言ったの。
はい、これで満足でしょ?今すぐ退いて。
吉田 ハギ
はいはーい。
彼は立ち上がると、そのまま生徒会室のドアの方へと進んでいく。

『スタスタスタ…』
先生
ちょ、ちょっと、吉田くん??
吉田 ハギ
俺、帰ります、
茉白 サツキ

(良かった、これで危険回避出来そう。)


胸をほっと撫で下ろす代わりに、緩くて深い吐息が出た。

流石に元に戻せなんて面倒臭い事を言われて、やる人間には見えない。

それに、そこまでして彼が私を手伝うメリットも無い。
吉田 ハギ
一旦、教室に。

(『一旦、』?!『教室に』?!)


驚いた表情が私の顔、全面に表れる。
先生
なら、吉田くん、
吉田 ハギ
はい、お手伝いします。
ピアスもやめて、染髪も元に戻せば良いみたいなんで。
先生
本当に?! 凄く助かるわぁ!
吉田 ハギ
俺なんかが役に立てば、ですけど。
乗り気になった先生はもう止まらない。
先生
ほら、吉田くんもこう言ってくれてるんだし。ね!
茉白 サツキ
いや、でも
先生
ね?!?!
茉白 サツキ
っ、

勢いに負けた私が口に出来たのは、

茉白 サツキ
…か、考えておきます。

この言葉だけだった。







吉田 ハギ
ねー、お手伝いする為に俺がここに居るんですけどー。
『カリカリカリ…』
茉白 サツキ
吉田 ハギ
無視デスカ?
『カリカリカリ…』
茉白 サツキ
私と対面するように据えられた席に、彼は背もたれに身を十分に預けて座っている。

既に先生は居らず、彼は教室に置いてきた荷物を取ってくると生徒会室に置いた。
吉田 ハギ
おーい、茉白さーん。
茉白 サツキ
吉田 ハギ
…なぁ、
茉白 サツキ
吉田 ハギ
無視すんなよ。
『パタンッ』

私の前に置いてあったノートパソコンが閉じられる。


画面に映し出された資料を見ながら、来月に生徒に配られる新聞記事を作っていた私は作業を停止せざるを得なかった。
茉白 サツキ
『ズリズリズリ…』

ノートパソコンはあっという間に彼の手元に引き寄せられてしまう。
茉白 サツキ
あの、返して貰える?
吉田 ハギ
嫌。
茉白 サツキ
それが無いと私、仕事にならないんだけど。
吉田 ハギ
知ってる。
茉白 サツキ

(完璧なる確信犯…)


私は「はぁ…」と大袈裟に息を吐いて見せた。
茉白 サツキ
何?何が望みなの?
どうしたらパソコン返してくれるの?
吉田 ハギ
今から俺が言う事、聞いて。

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