私は会長席から退かない彼の前まで歩いて行き、座っている彼を見下ろした。
(何、この人。)
彼の笑みには意図的なのか、単なる暇潰しにからかわれている様に感じる。
(あー…もう、どうでもいい。)
彼は立ち上がると、そのまま生徒会室のドアの方へと進んでいく。
『スタスタスタ…』
(良かった、これで危険回避出来そう。)
胸をほっと撫で下ろす代わりに、緩くて深い吐息が出た。
流石に元に戻せなんて面倒臭い事を言われて、やる人間には見えない。
それに、そこまでして彼が私を手伝うメリットも無い。
(『一旦、』?!『教室に』?!)
驚いた表情が私の顔、全面に表れる。
乗り気になった先生はもう止まらない。
勢いに負けた私が口に出来たのは、
この言葉だけだった。
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『カリカリカリ…』
『カリカリカリ…』
私と対面するように据えられた席に、彼は背もたれに身を十分に預けて座っている。
既に先生は居らず、彼は教室に置いてきた荷物を取ってくると生徒会室に置いた。
『パタンッ』
私の前に置いてあったノートパソコンが閉じられる。
画面に映し出された資料を見ながら、来月に生徒に配られる新聞記事を作っていた私は作業を停止せざるを得なかった。
『ズリズリズリ…』
ノートパソコンはあっという間に彼の手元に引き寄せられてしまう。
(完璧なる確信犯…)
私は「はぁ…」と大袈裟に息を吐いて見せた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!