第27話

“ 今日は俺の家に来て。”
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2020/04/05 06:00
生物の授業中、
私は少しだけ後方に顔を向けると、

ハギは重たそうな頭をうつ伏せの状態から上げた。
吉田 ハギ
どーして?
茉白 サツキ
最近、授業中もずっとうつ伏せが多いから。
彼は何も言わないまま、私の頭を両手で挟んでホワイトボードの方へ向かせた。
吉田 ハギ
俺の事、心配してくれてるの?
茉白 サツキ
うん。
吉田 ハギ
俺の事、大好きなんだね。
茉白 サツキ
それはちょっと違う。
吉田 ハギ
最近、俺が授業中に悪戯しないから寂しいんだね、茉白サン。
茉白 サツキ
それは絶対に違う。
久しぶりに髪を弄り始める彼。

私は黙って彼の言葉を聞く。
吉田 ハギ
別に悪くないよ。
最近、眠いだけ。
なんか、じめじめして来てるし。
茉白 サツキ
…そう。
彼の指先が私の髪の間をすり抜ける感覚。

細い指が私の髪を結っては離れて、また違う部分の髪へと触れる。
彼が触ると不思議と指通りが良くなり、髪が絡まない。


まるで、自分の髪までサラサラになった気分だ。
茉白 サツキ
吉田 ハギ
『サラッ…』


(あ、触るの止めた…)


彼の手が私の髪から離れたのが分かると、私は板書に集中した。

と、数分経った頃に急に後ろ髪を持ち上げられた。


(…?!)


首の後ろ部分で吹き通った風を感じる。


(ハギ、何するつもりなんだろう…?)
吉田 ハギ
茉白 サツキ
っ……
『サクッ』
茉白 サツキ
?!

(なっ、なななっ?!?!?!)


制服のブラウスの襟部分から内部に異物が侵入した。

その感覚にビクンッと身体が驚き、机を膝で軽く蹴り上げてしまった。


『ガタンッ!』
先生
生徒
(クスクス…)
茉白 サツキ
………
吉田 ハギ
(クスクスッ、クスッ…)
先生
茉白、どうかしたか?
茉白 サツキ
いえ、何でもありません。
先生
もしかして、寝てたんじゃないだろうな?
茉白 サツキ
寝ていません、しっかり起きていました。
先生
生徒
(クスクス…)
吉田 ハギ
(クスクスッ、クスッ、クスクスクスッ…)
疑いの目で私を睨む教壇の先生と、
周りのクラスメイトが彼を中心にクスクスと私を笑う。
茉白 サツキ

(は、恥ずかしすぎる…)


私は肌に異物を感じた部分をブラウスの上から押さえながら、再度振り向く。
茉白 サツキ
ハギ、何したの?
吉田 ハギ
お手紙入れた。
茉白 サツキ
私のブラウス内はポストじゃないんですけどね。
彼から授業中に手紙交換を持ちかけられる事もしばしばあったので、
何も気にせずブラウス内から例の手紙を取り出した。


(にしても、普通に渡してくれませんかねぇ…)



彼の手紙交換は独特で、私に催促したメモ用紙やルーズリーフにメッセージを書くと、普通には送って来ない。


ある時は筆箱の中だったり、

ある時は教科書のその日の授業ページに挟んであったり…


(手紙を送られる度にエスカレートしてる気がする…)



『カサッ…』
茉白 サツキ
………

(………………ん…???)


綺麗な字が並べられた文体を読んだ瞬間、

私の頭はクエスチョンマークでいっぱいになった。


そして、次第にビックリマークも増えていく。


(…はっ?!?!?!)


慌てて後ろに振り返ると、彼は待ってましたとばかりに笑って首を傾げる。
吉田 ハギ
ね?
茉白 サツキ
?!?!?!?!

(な、ななななな何が『ね?』なの?!?!)



確認しよう。

地味子な私だって、

どんなに男の人と関わる機会が無い私だって、

いや、そもそも男の人に好かれようとする努力しない私だって、


生物学上、きちんとした女の子な訳で。


更に現在、思春期真っ只中な訳で。




つまり、何が言いたいかというと…

茉白 サツキ
は、ハギ…
流石にこれは…ま、マズクナイデスカネ?
吉田 ハギ
何が?
茉白 サツキ
いや、ぜ、全部…
吉田 ハギ
いーじゃん、全然まずくないよ。
俺が呼んでるんだから、気にしないでよ。
茉白 サツキ
彼から受け取った手紙は、私の指先から出た汗のせいで若干湿り始めていた。

今彼と目を合わせると、無性に恥ずかしくなって下を向いた。


私のそんな姿を見て楽しくなったのか、

彼は私の耳元に口を寄せると耳打ちする。


吉田 ハギ
今日は俺の家に来て。

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