第29話

“ … ”
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2020/04/05 06:00
吉田 ハギ
ところで、どう?
俺のエロ本とか見つけた?
茉白 サツキ
『どう?』って言われても探してないし、そもそも…
彼はカーペットの上のローテーブルに持って来たティーセットを置くと、

「ん?」と私と顔を合わす。
茉白 サツキ
この本棚を見る限り、あるようには見えないんだけど。
私が視線で一部の壁が大きな本棚になっている方へ目を向ける。

有名ミステリー作家の小説を中心に、
聞いたことのある作品からマイナーそうな作品まで揃えてあった。
茉白 サツキ
漫画は私が読まない人間だからよく分かんないけど…
小説はこの作家さんが好きなの?
吉田 ハギ
んー、嫌いじゃないけど好きでもない。
そこの本は全部お父さんの。
茉白 サツキ
へぇ…本、好きなんだね。
吉田 ハギ
まぁ、揃えるぐらいだから好きなんだと思う。
茉白 サツキ
ハギは読まないの?
吉田 ハギ
あー、本読む時はゲームやり込んだ後ぐらいかな。
ゲームに飽きた時とか。
彼はティーカップをソーサーの上に乗せると、私の方へと動かした。

私はそのティーカップの前に座り、彼の手元を何気なく見ていた。

彼は2つのカップからティーパックを数回振ってから取り出すと、
クッキーが入れられたボウル状のお皿をローテーブルの真ん中に置く。
吉田 ハギ
さて、茉白サン。
残りの仕事、片付けちゃいますか。








それから数時間が経った頃、

私は彼に「ご馳走になったお茶の片付けをさせて欲しい」と申し出たところ、
彼がキッチンに案内してくれて、一緒に片付けをした。
『シャーーーッ』

食器に付いた泡を水で流し、シンクの隣の水切りかごに丁寧に入れていく。


(せっかくだから、拭いて食器ごとに纏めて置いた方が良いかな?)
茉白 サツキ
ハギ、洗った後の食器は拭いて固めて置いた方が良い?
吉田 ハギ
茉白 サツキ
ハギ?
吉田 ハギ
キッチンの向こう側にあるソファで寝ているのが見えた。

でも、返事が無い。


(寝てる?)


私は濡れた手をタオルで拭いて、ゆっくりと彼に近づいた。
茉白 サツキ
ハ…ギ……?
吉田 ハギ
っ…、はぁ、はぁ、はっぁ、…
そこにはソファの上で小さく蹲るようにして倒れていた、

ハギの姿があった。
茉白 サツキ
は、ハギ…?!
吉田 ハギ
っ、っっ、…はぁっ、はぁ、はぁ…
心臓辺りを強く掴み、苦しそうに息をする。

膝を折りたたみ、小さくなった身体が藻掻くように震えていた。
茉白 サツキ
ハギ、ハギっ、…ど、どうしたの?!
吉田 ハギ
はぁはぁ、…っぁ、
初めて見た彼の表情や姿に、私はどうすれば良いのか分からなかった。


ソファの上で藻掻き苦しむハギを揺すぶる訳にもいかず、
やり場の無い私の両手はハギの身体の上空で指先を意味も無く動かす事しか出来なかった。


(と、取り敢えず、救急車…!!!)



制服のポケットから取り出した携帯に番号を打ち込んだ瞬間、彼に荒々しく分捕られる。
吉田 ハギ
やっ、めて…おねが、い……

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