彼はカーペットの上のローテーブルに持って来たティーセットを置くと、
「ん?」と私と顔を合わす。
私が視線で一部の壁が大きな本棚になっている方へ目を向ける。
有名ミステリー作家の小説を中心に、
聞いたことのある作品からマイナーそうな作品まで揃えてあった。
彼はティーカップをソーサーの上に乗せると、私の方へと動かした。
私はそのティーカップの前に座り、彼の手元を何気なく見ていた。
彼は2つのカップからティーパックを数回振ってから取り出すと、
クッキーが入れられたボウル状のお皿をローテーブルの真ん中に置く。
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それから数時間が経った頃、
私は彼に「ご馳走になったお茶の片付けをさせて欲しい」と申し出たところ、
彼がキッチンに案内してくれて、一緒に片付けをした。
『シャーーーッ』
食器に付いた泡を水で流し、シンクの隣の水切りかごに丁寧に入れていく。
(せっかくだから、拭いて食器ごとに纏めて置いた方が良いかな?)
キッチンの向こう側にあるソファで寝ているのが見えた。
でも、返事が無い。
(寝てる?)
私は濡れた手をタオルで拭いて、ゆっくりと彼に近づいた。
そこにはソファの上で小さく蹲るようにして倒れていた、
ハギの姿があった。
心臓辺りを強く掴み、苦しそうに息をする。
膝を折りたたみ、小さくなった身体が藻掻くように震えていた。
初めて見た彼の表情や姿に、私はどうすれば良いのか分からなかった。
ソファの上で藻掻き苦しむハギを揺すぶる訳にもいかず、
やり場の無い私の両手はハギの身体の上空で指先を意味も無く動かす事しか出来なかった。
(と、取り敢えず、救急車…!!!)
制服のポケットから取り出した携帯に番号を打ち込んだ瞬間、彼に荒々しく分捕られる。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。