文化祭の日。
朝、目を覚ました。またあの夢だ。またゆっくり眠られてくれなかった。
ゆっくり起き上がって… 顔を洗って…
制服に着替えて…
朝ごはんも食べて…
学校に行く前におばさんの所に行った。
おばさんは、笑顔で『おはよう』と言い、カレンダーを見た。
ありがとう…私をずっと育ててくれて…
本当の子供のように可愛がってくれて……
本当に感謝してます。
私がそう言うと…おばさんは、少しずつ私に近づいてきて抱きしめた。
暖かった。心臓の音がちゃんと聞こえる…。
生きてる…。ドクン…ドクン…ドクン……。
『行ってきます。』と言い、家のドアを静かに閉じた。
おばさんは、玄関の前で笑顔で私を見送っていた。
さようなら。
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朝から、賑やかだ。もう屋台は立て…人が沢山来ていた。
校門は、可愛らしい字で…『文化祭』と書いてあった。
さてさて…お化け屋敷も、忙しくなるぞ。
教室に入ると、早速メイクする人や…衣装を着る人…
準備バッチリでお客さんを来るのを待っている人…が見えた。
楽しみで立っても座ってもいられないんだろうねー。
私も、バッグを置き…準備を始めた。
ダンボールから鎌を取り出して…翔の所へ向かった。
放課後…時間をかけて作った鎌を翔に渡した。
久しぶりだね。私から話しかけるのー。
翔は、私の方から話しかけてきたのが驚いているようだったが…
別に何も言って来なかった。
翔は、そういうとこ見落とすから。
…ね?最初から恥をかかないようにね。
離れようとすると、翔から話しかけてきた。
そのために私は、今日…学校にやってきたんだよ。
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みんな準備バッチリになった瞬間に…お化け屋敷が始まった。
次々と、お客さんが入って来…悲鳴があげて出ていく。泣き声も時々、聞こえた。
最初は、真っ暗でなんも見えなかったが…だんだん慣れるとぼんやり見えてきた。
『向こうの人に、水分渡してくれる?』
と、隣にいた生徒に言われ…ペットボトルを預かった。
静かに向こうまで歩き…お化け役をしてる人が見えたので肩を叩き…ペットボトルを渡した。
顔はよく見えなかったが…2人ぐらいいた。
……あぁ、八神と、葵ちゃんか。
向こうは気づいてなさそうだった。
二人ともメイクしていて…血だらけの衣装を着ていた。
こっちを見て目が合った。
その瞬間、八神は固まった。暗くても…何となく私だって気づいたんだろう。
八神とは、あの日の放課後から…気まずい。
葵も、八神を見てる方向を辿ってこっちを見た。
……二人とも頑張っているみたいだね。
葵は、私を見た瞬間…悲しそうな顔をして目を逸らした。
八神もここから離れようと立ち上がったので、腕を掴んだ。
《言いたいことがありますー。》
突然すぎてなんと答えばいいのか困っている八神に…
…と、言い残してこの場から離れた。
それで…いいんだ。別に、後悔はない。
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《後夜祭》
文化祭は、あっという間に過ぎていった。
今や、校庭でキャンプファイヤーをやっていて…みんなまた盛り上がっている。
来るのかな?3人……。
私は、教室の自分の机に座って待っていた。
月の明かりや、キャンプファイヤーの炎で…教室は、そんなに暗くなかった。
ぼーっ。と待っていると…こっちにやってくる足音が聞こえ、ドアを開く音がした。
振り返ると、3人…そこに立っていた。
私は、立ち上がって微笑んだ。
八神は、私を見ずに…
と、答え…少しずつ私の所へ歩いてきた。
一緒にやって来た2人も八神も、浮かない顔をしていた。
今夜は、満月だー。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。