第10話

壊れてゆく輪
63
2019/02/10 10:15
《学校》   (葵side)

昼休みは、いつも通りに騒々しい…。

楽しそうな声が弾んでいる。
葵ちゃん
今日、ちこちゃんが休みなんて珍しー!
体調でも悪かったのかな?
八神 煌
お前が夜誘い出したからじゃねーか?
翔は、『そうかも…。』と言い、青ざめた。

それを見て八神は、吹き出した。
八神 煌
お前ってさ、いちいち真に受けるよなー
はぁ!?悪いのかよっ!?
昨日の夜…話をしてからもっと仲良くなった気がするのは私だけかな?

2人のやり取りを私は、微笑んでみていた。
葵ちゃん
(…良かった。)
ちこちゃんも、帰ってきたらまた盛り上がりそう…。

そう思って微笑んでいたのは…後になって後悔するのだった。
葵ちゃん
ねー、犯人探しの件どーなったのよ?
あ、そうだな!話し合おうぜ!
八神の机の周りに、葵と、翔は、腰を下ろした。
葵ちゃん
でさ〜犯人の名前は何なの?
八神 煌
佐藤 ちこって言うんだ。
ちこ……??
八神 煌
他に、この学校でちこっていう名前の人いる?
葵と翔は、固まった。
目を合わせ……翔は、小さい声で言った。
この学校…吉田 ちこ以外に…ちこっていう名前の人…いないけど?
八神 煌
……え?
葵ちゃん
私も、吉田 ちこ以外のちこっていう名前あんまり聞かないよ…?
八神 煌
…は?
(八神の心の声)

どういう事だ?
だったら…吉田 ちこが犯人だって言うのか?

……え?…はっ?
…え、そんなわけないよなぁ?
こんな、あっさり分かるわけねえよなぁ?
同じ事を思ったのか、翔は苦笑いをする。
そうだ、そうあっさりと…犯人が分かるものなの…?
葵ちゃん
でもさ、名字違うよ?
葵ちゃん
佐藤でしょ?犯人は。ちこちゃんは、吉田…だよ?
八神 煌
俺も、そう考えて…吉田は犯人じゃないって思っていた。
八神 煌
他に、ちこと言う名前の人がいるはずだっ…て……な?
次の瞬間、静かになった。

え?吉田 ちこ が、11年前の事件の犯人?
八神 煌
じゃあ、俺は今まで犯人の近くに…?
八神は、だんだん怖い顔になっていく…。

翔も、何も信じられないという顔になった。



違うと…私も信じたい。

あのちこちゃんだよ?優しくて…人を殺そうな人にはとっても見えない…あの人だよ?
葵ちゃん
…私は、信じない
八神 煌
……。
何言ってるんだよ?吉田しかいねえじゃねーか。
私は、ずっと ちこちゃん のそばにいた。

絶対にあんなことをする人じゃない。
葵ちゃん
違う…違うよ。
私は、否定した。
でも、八神は冷たい目で私を睨んで言った。
八神 煌
人はな…簡単に変われるんだよ。

八神は、初めて…転校してきた時のあの暗い顔に戻った。
最近、ちこと話して…自然な顔になってきたのに…。


全てが…今までの全てが壊れたのように感じた。
葵ちゃん
八神は、吉田が犯人だと思ってるの?
八神 煌
…ああ。なんだって…他に、いないんだろ?
八神 煌
だったら、吉田を疑うまでだ。
八神は、ハッと笑う。
八神 煌
馬鹿だったよ、俺は……。
つまり、吉田は、僕らを利用してたのか?味方のふりをして情報を得て…バレないように工夫していたのか…?
もしかして…今日休んだのも…
葵ちゃん
違う!!
そんなの…上手く組み合わせただけだよ…。

吉田 ちこ が犯人だって言う証拠はない!!
葵ちゃん
証拠は?ちこ が犯人だって言う確かな証拠は?
八神 煌
……ねぇが…
葵ちゃん
八神…。本当は ちこ に救われていたんじゃないの?
八神 煌
……は?
葵ちゃん
ちこ と、話してから明るくなったよ?
葵ちゃん
やっと…友達が出来たって。
八神は、何も言い返せず…下を俯く。
葵ちゃん
友達だって…この人なら信じられるって思って…転校してきた本当の意味を話したんでしょ?
そうなんでしょ?信じて…1番最初に話したんでしょう?
八神 煌
……でも、信じたその人が…犯人だったんだ。
葵ちゃん
まだ分からない…!もう少し、信じてみようよ!
バッグについてるうさぎのキーホルダーが目に映る。


前…ちこ が、誕生日にプレゼントしてくれた…。
私にとっては初めての友達からのプレゼントだった。


私は、ずっといじめられていた。

それを止めて…私の手を握ってここまで引っ張ってくれたのは…ちこ。

今とは逆で…暗かった私に話しかけてくれて…。
『友達になろう!』って言ってくれて…。

今、ここに居るのも ちこ のおかげ。




だから、今度は私が…助けたい。


もし、ちこ が…犯人だとしても…なんか意味がある。
あんな優しい人だから、意味なく人を殺すようなことは絶対にしない。


いつか、いつか……自分から全てを話してくれると信じてる。

だから、今はちょっとだけ待っていて欲しい。
葵ちゃん
そして…もう1つの可能性も考えられる。
葵ちゃん
その犯人は、過去を隠そうとします。
葵ちゃん
その為には、名前も変えたとしたら?
そう言うと、2人はハッとし…少し考え込む。
葵ちゃん
吉田と、名前が同じだったのは…ただの偶然だとしたら?
しばらくすると、八神が口を開いた。
八神 煌
…そうだな。ちょっと様子を見ようか。
あぁ、そう決めつけて…違ったら困るもんな。
良かった。…とりあえず ちこ が帰ってきてすぐに《大喧嘩》とかならないで済む…。

ほっとしていると…八神は、ため息をつき こう言った。
八神 煌
でも…吉田もまだ疑ってるからな。
葵ちゃん
うん……分かってる。
とりあえず…明日からも、今まで通りに振る舞うことにした。


少しずつ…少しずつ…4人の輪が壊れて行く音がした。

そして、誰かが遠く行ってしまいそうな気がした。





私は、4人と話し合って…今度こそちゃんとした友達になりたい。


そんなの綺麗事だって…言われるのかな?

うざく思われるのかな?




そうでも…私は、そう思ってるー。

《他の3人はどう思っているのだろうー?》


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