《10年前》
その時、私は4歳だった。
まだまだ幼かった私は、仕事から帰ってきたお父さんにすぐさま抱きついた。
今でも覚えてる…。
あの時のお父さんの顔を……。
あの日が全ての始まりだったのだと思う。
目の下にはくまが出来……
顔色もあんまり良くなかった。
それなのに……お父さんは…。
すぐさま笑顔を作り、私を高い高い してくれた。
お母さんも顔を出し、
と、優しい笑顔で言った。
私と、お父さんは、目を合わせ…一緒に
『ご飯!!』
と、お母さんに叫んだ。
私は、幸せだった。
とても幸せな家族だったと思う。
休日もよく遊んでくれた。
でも、だんだんお父さんが帰ってくるの遅くなった。
私は、ずっと玄関の前で待ち続けた。
その日は、11時になっても帰って来なかった。
そう言われ…うん。と頷いて私は、ベッドへ向かい…眠りについた。
ーー。ーーーーーー。
なんか話し声がして夜中に目を覚まし…静かにドアを開けた。
お父さんが帰っていた。
暗い顔をして席に座る2人が見えた。
1歩踏み出そうとした足を止めた。
お母さんは、ちょっと怒った声で叫んだ。
お母さんの顔は怖かった。
私を怒っている時とはまた別の顔。
お父さんは、下を俯いていた。
お母さんは、顔を覆って…静かに泣いた。
お父さんの方が辛いはずなのに…
お父さんは、笑っていて…お母さんの背中を優しく撫でていた。
お父さんの優しい声と、お母さんのすすり泣きを聞きながら…私は、そっとドアを閉めてベッドに戻った。
もし、あの時出て……止めたら…。
なんか言ってあげたら…、今、ここにお父さんはいたのかな?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
《10月2日》
私の誕生日。
ケーキもあるし、プレゼントもあるけど……寂しかった。
私は、お母さんに聞いた。一緒に祝ってくれる人が居ないよ?って。
私の誕生日忘れたの?
昨日、絶対に来るって約束したのに…。
私のことより…仕事が大切なの?
もういいよ……。
最近…なかなか会えないし…遊んでくれないし…話さえもしてくれない。
私のこと…要らなくなったの?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
《会社》
次の瞬間、強く机を叩く音が聞こえた。
社長は、机に足を乗せ…偉そうな声でこう言った。
お父さんは、ただただ俯いて…社長の言うことに従うしかなかった。
もうお父さんの心も、体もボロボロだったと思う。
《10月3日 0時1分》
息を切らしていたから…走ってきたのかな?
ちょっと心配になったけど…声をかけなかった。
さっきまであった眠気はもう消えた。
お父さんが帰ってきた。嬉しかったのに…その時の私は素直になれなかった。
お父さんは、背を低くして私に近づいてきた。
そっとプレゼントを出そうとしてる途中…
私はお父さんに言った。言ってはいけない言葉を…。
その瞬間…お父さんの顔が暗くなったのが分かった。
お母さんは、私に怒鳴った。
お母さんは、泣きそうだった。
お父さんは、怒鳴るお母さんをとめた。
『もういいよ。僕が悪かったから。』って…。
私は、ただただ大きな声で泣いて部屋に閉じこもった。
お父さんは、私になんか言おうとしたのが見えた。
なんて言いたかったのかな?
次の朝、お父さんはもう先に出ていて…
その日の夜…お父さんは《事故》で亡くなった。
《夜中1時》の事だった。原因は、居眠り運転…。
その時間、私は…お父さんに謝りたくて…ずっと玄関の前で待っていた。
眠いのは、慣れた。この時間まで待っていた事少なくもなかったし…。
目をこすって…体育座りをしてドアを開くのを待っていた。
(お父さん…まだかなぁ??)
もう二度とお父さんと、話をすることが出来なくなった。
《笑顔》も見えなくなった。
《謝ること》も出来なかった。
次会った時のお父さんは、真っ白だった。冷たかった。
静かに眠っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
目を覚ますと…朝の6時半。
嫌だ…嫌だ嫌だ。怖い怖い…怖いよ。
涙が止まらなかった。
私の叫び声を聞いて…おばさんがやって来て背中をさすってくれたが…泣きやめることが出来なかった。
お父さん…。お母さん……。
私は、《人殺し》なんです。
その日、私は学校を休んだー。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。