第9話

10年前の思い出
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2019/02/09 10:55
《10年前》
その時、私は4歳だった。
佐藤 ちこ
おとーさん!
まだまだ幼かった私は、仕事から帰ってきたお父さんにすぐさま抱きついた。
吉田 ちこ
仕事おつかれさまでし〜た!
今でも覚えてる…。

あの時のお父さんの顔を……。
あの日が全ての始まりだったのだと思う。

目の下にはくまが出来……

顔色もあんまり良くなかった。


それなのに……お父さんは…。
お父さん
…ただいま!ちこちゃん、またまた大きくなってないかぁー?
すぐさま笑顔を作り、私を高い高い してくれた。

お母さんも顔を出し、
お母さん
おかえりなさい、ご飯にする?
と、優しい笑顔で言った。

私と、お父さんは、目を合わせ…一緒に

『ご飯!!』

と、お母さんに叫んだ。
私は、幸せだった。

とても幸せな家族だったと思う。

休日もよく遊んでくれた。



でも、だんだんお父さんが帰ってくるの遅くなった。
私は、ずっと玄関の前で待ち続けた。

その日は、11時になっても帰って来なかった。
佐藤 ちこ
うぅ……
お母さん
ちこ…もう寝ましょ?
佐藤 ちこ
お父さんは?
お母さん
大丈夫、明日の朝…目を覚ましたらいるわよ。
そう言われ…うん。と頷いて私は、ベッドへ向かい…眠りについた。




ーー。ーーーーーー。

なんか話し声がして夜中に目を覚まし…静かにドアを開けた。

お父さんが帰っていた。
佐藤 ちこ
おと……
お母さん
え、あなた……。
お父さん
すまない…。罠にかかってしまった。
暗い顔をして席に座る2人が見えた。

1歩踏み出そうとした足を止めた。
お母さん
それでいくら……?
お父さん
500万円。
お母さん
嘘でしょう?…あなた、それであの人に毎日…?
お父さん
……っ。
お母さんは、ちょっと怒った声で叫んだ。
お母さん
罠をかけたのもあの人なの!?あなたに仕事を押し詰めているのもあの人!??
お母さんの顔は怖かった。

私を怒っている時とはまた別の顔。
お父さん
静かに…。ちこが起きてしまうだろう?
お父さんは、下を俯いていた。

お母さんは、顔を覆って…静かに泣いた。
お父さん
ごめん…。でも、迷惑にはかけない。
お父さん
今までよりも…働くから。我慢するから…なっ?
お父さんの方が辛いはずなのに…

お父さんは、笑っていて…お母さんの背中を優しく撫でていた。
お母さん
私は…あなたが壊れてしまうのが怖い…
お父さん
…大丈夫、壊れないよ。だって、僕は……
お父さん
お前や、ちこちゃんがいるから…頑張れるよ!
お父さんの優しい声と、お母さんのすすり泣きを聞きながら…私は、そっとドアを閉めてベッドに戻った。


もし、あの時出て……止めたら…。

なんか言ってあげたら…、今、ここにお父さんはいたのかな?

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《10月2日》

私の誕生日。
ケーキもあるし、プレゼントもあるけど……寂しかった。

私は、お母さんに聞いた。一緒に祝ってくれる人が居ないよ?って。
佐藤 ちこ
お父さんは……?
お母さん
来るって言ったけどね……。
お母さん
遅いね……。仕事かな?
私の誕生日忘れたの?
昨日、絶対に来るって約束したのに…。

私のことより…仕事が大切なの?



もういいよ……。

最近…なかなか会えないし…遊んでくれないし…話さえもしてくれない。



私のこと…要らなくなったの?


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《会社》
お父さん
すいません、もう帰らないといけないんです。
社長 (八神の父)
はぁ?何を言ってる?まだ仕事が残ってるんじゃないか。追加の仕事もある。
お父さん
いや、子供が待ってい…
次の瞬間、強く机を叩く音が聞こえた。

社長は、机に足を乗せ…偉そうな声でこう言った。
社長 (八神の父)
お前の都合なんか知らない…!
子供?そんなの邪魔になるだけだ!!
お父さん
……っ!でも、僕は帰りま…
社長 (八神の父)
ははっ、借金は?今、帰るのなら…もっと増やすぞ?お前の立場分かってるのか?
お父さんは、ただただ俯いて…社長の言うことに従うしかなかった。

もうお父さんの心も、体もボロボロだったと思う。




《10月3日 0時1分》
お父さん
ただいま!はぁはぁ…ちこちゃん!
息を切らしていたから…走ってきたのかな?

ちょっと心配になったけど…声をかけなかった。
お父さん
ごめんね…、ちこちゃん。
誕生日おめでt……
佐藤 ちこ
もう終わったよ。私の誕生日は
さっきまであった眠気はもう消えた。

お父さんが帰ってきた。嬉しかったのに…その時の私は素直になれなかった。
佐藤 ちこ
ずっと待っていたのに…。眠りたいのを我慢して!
お父さん
ちこ……
佐藤 ちこ
私より、お仕事が大切なの…!?
お父さん
違っ…!!
お父さんは、背を低くして私に近づいてきた。
お父さん
ちこちゃんの方が大切に決まってるんじゃないか!ほら、プレゼントも買っ…
そっとプレゼントを出そうとしてる途中…

私はお父さんに言った。言ってはいけない言葉を…。
佐藤 ちこ
…おとうさんなんて…大嫌いだ!!
その瞬間…お父さんの顔が暗くなったのが分かった。
お母さん
ちこ…!!
お母さんは、私に怒鳴った。
お母さん
お父さんはね!あなたと、私のために働いてるの!そんなこと言ったらダメ!!
お母さんは、泣きそうだった。
お父さんは、怒鳴るお母さんをとめた。

『もういいよ。僕が悪かったから。』って…。



私は、ただただ大きな声で泣いて部屋に閉じこもった。

お父さんは、私になんか言おうとしたのが見えた。

なんて言いたかったのかな?




次の朝、お父さんはもう先に出ていて…

その日の夜…お父さんは《事故》で亡くなった。

《夜中1時》の事だった。原因は、居眠り運転…。



その時間、私は…お父さんに謝りたくて…ずっと玄関の前で待っていた。
眠いのは、慣れた。この時間まで待っていた事少なくもなかったし…。

目をこすって…体育座りをしてドアを開くのを待っていた。


(お父さん…まだかなぁ??)





もう二度とお父さんと、話をすることが出来なくなった。
《笑顔》も見えなくなった。
《謝ること》も出来なかった。


次会った時のお父さんは、真っ白だった。冷たかった。



静かに眠っていた。


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吉田 ちこ
……はっ!?はぁ…はぁ…はぁはぁ
目を覚ますと…朝の6時半。

嫌だ…嫌だ嫌だ。怖い怖い…怖いよ。
吉田 ちこ
はぁ…はぁ…っ!うっ…うわぁぁぁぁああああ!!!
涙が止まらなかった。

私の叫び声を聞いて…おばさんがやって来て背中をさすってくれたが…泣きやめることが出来なかった。



お父さん…。お母さん……。


私は、《人殺し》なんです。
吉田 ちこ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!


その日、私は学校を休んだー。

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