私は矢を放つように、言葉を続けた。
「私は、あなたなんか好きにならない。絶対に、好きにならない。嫌いよ。大嫌い。みんなそう、そうやって甘い言葉を囁くのよ。女なんてちょろいと思ってるの。甘い言葉を囁けば自分になびくって。そんな傲慢さが嫌。不倫する男なんて所詮たかが知れてるのよ。」
矢を放って、放って、放って。
心に突き刺さって一生抜けなければいい。刺さったところから血が溢れて、一生止まらなければいい。ぐじぐじとした傷を、一生抱えて生きていけばいい。
お前が好きなんだ、なんて言葉吐いて、答えはいつも遠い未来に放り投げるんでしょう?
強引に引き寄せられて、零すまいと我慢していた涙が頰を伝った。
泣くなんて、哀れだ。
惨めで、情けなくて、馬鹿馬鹿しくて。
なのに、今、どうしようもなく。
私の雌の部分が、彼を欲しいと求めるのだ。
「それでも、お前が欲しいんだ。」
どうしようもなく、という言葉。
口に出したら終わりだって、分かっているのかいないのか。
安っぽい女になんてなりたくない。
だけど、ぬかるんだ泥に足を取られて動けないのは紛れもない私。
否定の言葉は、乱暴な口付けの中で音にならずに爆ぜていく。
頭の中で問題をこねくり回したって、どうせもう、私たちは。
出会うのが遅かったんだ、って当たり前のように囁かれて、私は自嘲気味に笑った。
答えなんて、とっくに出ている。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。