第5話

どうせ僕らは
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2018/10/08 09:09
私は矢を放つように、言葉を続けた。


「私は、あなたなんか好きにならない。絶対に、好きにならない。嫌いよ。大嫌い。みんなそう、そうやって甘い言葉を囁くのよ。女なんてちょろいと思ってるの。甘い言葉を囁けば自分になびくって。そんな傲慢さが嫌。不倫する男なんて所詮たかが知れてるのよ。」


矢を放って、放って、放って。
心に突き刺さって一生抜けなければいい。刺さったところから血が溢れて、一生止まらなければいい。ぐじぐじとした傷を、一生抱えて生きていけばいい。

お前が好きなんだ、なんて言葉吐いて、答えはいつも遠い未来に放り投げるんでしょう?



強引に引き寄せられて、零すまいと我慢していた涙が頰を伝った。
泣くなんて、哀れだ。
惨めで、情けなくて、馬鹿馬鹿しくて。
なのに、今、どうしようもなく。
私の雌の部分が、彼を欲しいと求めるのだ。



「それでも、お前が欲しいんだ。」

どうしようもなく、という言葉。
口に出したら終わりだって、分かっているのかいないのか。
安っぽい女になんてなりたくない。
だけど、ぬかるんだ泥に足を取られて動けないのは紛れもない私。

否定の言葉は、乱暴な口付けの中で音にならずに爆ぜていく。

頭の中で問題をこねくり回したって、どうせもう、私たちは。

出会うのが遅かったんだ、って当たり前のように囁かれて、私は自嘲気味に笑った。


答えなんて、とっくに出ている。

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