『おーい!坂田ー!!教科書返せー!!』
もう下校しようと、昇降口にいた隣のクラスのさかたんに大声をかける。
私の彼氏、うらたくん経由で仲良くなった友達なんだけど、こりゃまぁ忘れ物が酷い。
そして何故かうらたくんじゃなく、私に借りに来るが押しに負けて貸してしまう私。
そんなさかたんは、遠くでもわかるくらい目を見開いた。
直後、私に負けないくらい大きな声を出した。
『ごめーん!!返すの忘れてたー!!』
そう言いながら、ちょこちょこと小走りしてくるさかたん。
相変わらず、小動物のようだ。
そんな彼の元へ、私も駆け寄る。
『はい、!ごめんっ!忘れてたっ、!!』
『もー、ほぼ毎回忘れてるじゃん!』
『次は忘れないでね!って毎回言ってるけど…できる?』
『うん!できる!多分!!』
曖昧な宣言を笑顔でするさかたんに、返された教科書で頭を軽く叩く。
鈍い音と鈍い声が聞こえたけど気にしない。
『んじゃ、ありがと、私待ち合わせしてるからまた明日!!』
『んー!ありがとー!!』
小走りしつつ、さかたんの方を振り返ってみる。
すると、彼は大袈裟に手をブンブン振ってくれていた。
私も彼に負けないくらい大きく振り返すと、遠目でもわかるくらいニコッと笑ってくれた。
さかたんの笑顔を確認して、私は目的地へと走った。
『ごめーん、!!うらたくん遅くなって、!!』
『…別に、』
中庭でスマホをいじって待っていた、私の彼氏うらたくん。
お互い部活が忙しく、最近一緒に帰れていなかった。
しかし今日はたまたま都合があったため、久しぶりに一緒帰ることになった。
ただ、私が来てもうらたくんはスマホから目を離そうとしない。
それに、さっきの返事も何だか冷たく感じた。
『う、うらたくん…か、かえr__________』
心配になって、うらたくんの顔を覗くと突然視界が真っ暗になった。
その原因に気付いたのは、うらたくんの手が自分の頬に添えられてからだった。
気付いた時には、うらたくんの顔が目と鼻の先にあり、吸い付くように口付けをされた。
何度も何度も角度を変え、求めるうらたくんに抵抗はできず、されるがままとなる私。
『んぅらっ、くっ、ん、っ、!』
『っは、ぁ、っ黙れっ、』
『んんんぅっぁ、』
少し距離が離れたと思ったのも束の間、黙れの一言だけ言われ、また口を塞がれた。
今彼がどう思っているのかも分からない。
ただ、私が遅かったから、怒っているのかと思ったけど、そうでもなさそう。
『っぷはぁっ、ちょ、どうしたの…?』
『坂田と話しすぎ…俺の彼女なのに…』
その一言にとても驚いた。
怒っている、というよりは嫉妬に近かった、いや何なら嫉妬そのものだ。
うらたくんは嫉妬なんてしない、と偏見を持っていたが故に、とても驚いてしまった。
そんな私の表情を読み取ったのか、すぐさま手の甲で口元を隠した。
『や、やっぱり忘れろ、今の無かったことにして…////』
なんて彼は言っているけど、忘れる気なんて微塵もない。
なんなら、録音しておけばよかったレベル。
今まで見れてこなかった、うらたくんのデレ。
常に塩対応で、付き合えた今でも塩なうらたくん。
そんな彼は実は嫉妬深いみたいです。
『嫉妬のちゅー_うらたぬき』
Fin__________
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。