『うわぁ…むっちゃびちょびちょやん…』
リュックを肩から下ろすと、リュックからは水が滴っていた。
私はそれをタオルで優しく拭き取った。
本当に雨の日は、気分が憂鬱になる。
雨があまり好きではない私は、学校がある日に雨が降られたら気分が落ちる。
それに、私は普段は自転車通学だが、雨の日は濡れてしまうため、電車通学。
人混みが苦手な私は、朝の通学だけで疲労がたまる。
『はあぁぁぁぁぁ…だっるい…』
リュックを机の横に掛け、自分の席に座る。
机はリュックをさっきまで置いてたため、所々濡れてしまっている。
それを制服の袖で拭ってから、だらんと身体を預ける。
雨の日は、いつも以上に早く登校するから当たり前に誰も居ない。
だいたい8:15に早くても1人目がくる。
しかし私が来たのは8:00。
だから、誰も居ないという貸切状態で少し楽しくもある。
ガラガラ
そう思った瞬間に誰かが、教室に入ってきた。
我ながらタイミングが悪いな、と心の中でツッコんでおいた。
『あっ、あなたやん!』
『あぁ、坂田くんか、おはよう』
『んふふ、おはよっ!!』
声の音源を辿ると、そこには坂田くんが居た。
坂田くんはとても明るくて優しくて、私とも仲良くしてくれている。
しかし、勉強は苦手なようで、度々私が教えることも。
そんな彼に挨拶をすると、ふにゃりと口元を緩めて挨拶を返してくれた。
『ってか、!めっちゃ服びちょびちょやん!』
『よく見たら髪の毛もすごい水滴ってるし…!?』
あまり見てなかったから今気づいたが、坂田くんの制服はびちょびちょに濡れていた。
それに服も濡れているのだから、当然髪も濡れていた。
まるで、お風呂上がりのようだ。
私の声に驚いたのか、少し肩を震わせたあと、力なく笑ってこう言った。
『あはは…あの、置き傘しちゃって家に無かったからしかたなく…w』
『え、つまり傘ささずに学校きたん…?』
私が恐る恐る問いかけると、控えめにこくりと頷いた。
何となく答えは分かっていたが、本当にそうだと言われると驚いてしまう。
呆れた私は自分のリュックから、タオルを取り出しながら坂田くんを手招く。
『もう…まだ小雨やからマシやったけど…風邪ひくよ…』
『ほら、タオル私持ってるからこっちおいで』
坂田くんの方をちらりと見ると、申し訳なさそうにこちらに来た。
私はまず、坂田くんの綺麗な赤髪を丁寧に拭いた。
もともと髪がさらさらな彼は、雨に濡れて余計にさらさらになっていた。
私は羨ましいな…とか思いながら着々と拭いてゆく。
そして次に制服。
雨に打たれて濡れた制服は、少し透けてしまっていた。
その所為でインナーが若干見えている。
男の子だからまだマシだ…と思いながらも、目のやり場に若干困っている私。
こんなので緊張してどうするんだ、と考えるのを止める。
少し坂田くんが気になって視線を移すと、丁度彼もこちらを見ていたようで、バチッと視線が重なった。
『えっあ、…』
『あっ、そう言えばなんか強引に拭いちゃってるけど…大丈夫…?』
『あっ全然、!逆になんかありがと…//』
遠慮がちにお礼を言う彼の頬は、心做しか少し紅潮して見えた。
雨に濡れたせいで、風邪をひいたのだろうか。
私は気になってつい、彼の額と私の額に同時に手を当てた。
『うあっ、!?』
『あぁごめん、顔赤いから熱あるのかなって…』
『息も荒いし、風邪引いちゃった…?』
『いやいやいやいや、!全然俺元気だから!?大丈夫だよ!!』
『あぁ、そう…?』
額に手を当てたところ、特に熱くはなかったから熱ではないと思う。
しかし、息遣いも少し荒いから本当のところどうなのだろうか。
少し気になったが、本人が大丈夫だと言っているから、追求しないようにした。
『よし、だいたい拭けたかな?』
『あなた、わざわざありがと…』
『俺、あなたのそういうとこすき』
どういたしまして、と言おうとした時、坂田くんが言葉を放った。
"俺、あなたのそういうとこすき"
鈍感だと友達に言われる私でもわかる。
だんだんと紅潮していく頬。
顔だけじゃなく、耳まで自分でもわかるくらいには熱い。
驚いて坂田くんを見ると、彼はさりげなく視線を逸らしていた。
これは…どっちの"すき"?
坂田くんの熱でも伝染ったのかな________
『雨の日のときめき_となりの坂田。』
Fin________
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。