第10話

恋のお魔じない_志麻
360
2021/05/25 14:35
『おまじないかぁ…』
スマホ画面をぼんやりと眺めながら、小さく呟く。
私の通う高校は、スマホの持ち込みがOKなため休み時間に使用している。
そんな時、丁度ネット記事に載っていた"おまじない"が目に止まった。
『今でもこんなんあるんかぁ…』

『ほぇ…』
一度スクロールすれば、色々なおまじない。
それも学生向けの"恋のおまじない"が多数だった。
効果ありなどと好評なものから、そうでないものまで…様々だった。

私はそんな記事を適当に目を通しながら、スクロールをする。
すると、後方から声が掛かった。
『あ、それ最近はやってるやつちゃうん?』

『ぇ、あ、そうなの…?』
声の主は、同じクラスの月崎くんだった。
皆には志麻って呼ばれてるけど、私はどうも名前呼びが苦手で。
本人にも志麻って呼んで、って言われたが残念ながらお断りした。

そんな志麻こと月崎くんは私の好きな人。
後ろの席なのだが、おしゃべりな彼は授業中も喋りかけてくるから心臓が持たない。
照れ屋な私は尚更しんどかった。
『そうそう、文化祭も近いしってやる人多いみたいやな』

『そ、そうなんだ…知らなかった、』

『あ、そうやったん?知ってて見てるんかと思ってた…‪w』
背後で聞こえる優しい笑い声。
ただそれだけでも私の胸は高鳴った。
『そういえば、あなたって好きな人おるん?』

『へっ、?わ、私は…ぃちおう…いる…けど…、』

『えー!だれだれー!俺の知ってる人ー?』
少し移動して、私の前に来て机に手をつく月崎くん。
その顔はとても興味津々そうだった。
出来るものなら、ここで"月崎くんだよ"って告白したい。
でも私にそんな勇気は伴っておらず、なんなら告白したところで上手くいくと限らない。
というかほぼ叶わない恋であろう。
何故なら、月崎くんはクラスのムードメーカー、クラスの必要不可欠、そんな存在だった。
そんなステータスをもつ彼が、私を好きになるわけが無い。
もし仮にそんな事実があろうものなら、月崎くん以外とは二度と付き合わないだろう。
『う、うん…知ってる人、』

『えー誰やろ…んー…………あっ!坂田!!』

『し、しーっ、!』
私の好きな人が坂田くんだと思ったのか、大きな声で彼の名前を呼んだ志麻くん。
お陰で坂田くんは私たちの方へ視線を移した。
控えめに坂田くんへ視線を向けると、顔を赤らめてそっぽを向かれた。

機嫌を損ねたと思って月崎くんを睨む。
だが、月崎くんは至って普通、へらへらとしていた。
『も、もうこの話はおしまい、!』

『えー?気になるのにぃ〜…』
ふくれっ面をかます月崎くんの背中を押す。
すると彼はフラフラ〜と違う人の所へ行ってしまう。
一先ず安心だが、これからも好きな人のことを聞かれるかもしれない。
なんなら、本当に告白してしまおうか。

一瞬本気にしたが、儚く散るのが目に見えてわかる。
…………おまじない…
先程開いていたネット記事を再度開く。
そこにはやっぱり恋のおまじないの記事が色々紹介されるように載っている。
私はおまじないを実践しようと試みた。
これなら今でもできるかも、
1つ簡単なおまじないを見つけた。
内容としては、まず白紙にハートを描き、シャーペンの芯が出ていない状態にする。
そして、自分と彼のフルネーム分ノックしてシャー芯を出し、ハートを描く。
さらに出した芯でハートを塗りつぶす。
この際、芯が折れずに全部塗りつぶせたら、両想いになれるというらしい。

元々占いやおまじないには興味がなかったため、未だ半信半疑。
こんな簡単に両想いになれていいものなのか。
それに、このおまじないは人に見られてはいけないらしい。
教室内でやるにはリスキーすぎる。

そう思い、私は人目の付きにくい図書館に移動することにした。
が、立ち上がろうとした瞬間、目の前に誰かが立ちはだかった。
『ねぇ、あなた』

『っ、なに、?』

『ちょっと話したいことがあるから、着いてきてくれへん?』

『………わかった、』
またもや月崎くんだった。
彼はさっきとは別人のように、真剣な表情をしている。

何かわからないまま、私は恐怖心と共に彼について行った。









『美術準備室になんの用が…?』

『誰にもバレたくないから、人目の少ないとこ選んだ』
連れてこられたのは、美術準備室だった。
ここに入室する生徒なんてまず居ないわけだから、確かに人目につかない。

少しそわそわしている月崎くんを見つめた。
『っ、あのさ、俺…』
だんだんと月崎くんの頬が紅潮していくのが分かる。
彼の顔をみて、私は不思議と告白…なのかな、なんて思ってしまった。
そんな淡い期待は胸に閉じ込め、彼から言葉を放たれるのを待った。
『………っあなたのことが好き、っ…』

『だから、っ、付き合ってください、!』
何と予想的中。
まだ頭の整理が出来てないけど、月崎くんは手を差し出している。
本当に好きって思ってくれているんだろうな。
そう思うと、何だか可愛らしく思えてきた。
私の答えはもう決まっていて。
『っよ、喜んでっ、!!』

『っまじ、?』
恐る恐る彼の手を取る。
すると安堵の表情を浮かべたのも束の間、瞬間私は月崎くんに抱きしめられていた。
そこまで変わらない背丈。
でもやはり男の子らしい身体で私を包み込む。
そんな月崎くんを私は精一杯抱き返した。

数分前まで片想いしていた自分がうそのよう。
おまじないなんかに頼らなくても、時にはこんな奇跡も起きる。

志麻くんが耳元で"大好き"って言ってくれたことは、ここだけの秘密__________










『恋のお魔じない_志麻』

Fin__________

プリ小説オーディオドラマ