第4話

コーヒーはミルクへ変わる_センラ
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2021/02/27 14:26
『ねぇセンラアアアアアアア』

『なになになに、そんな何回も呼ばんでも聞こえとるわ!』

『もう私病むぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!』
ここはセンラのお家。
私と彼は小さい頃からずっと一緒にいて、言わば幼馴染という存在。
だから、良い所も悪い所も、お互い知り尽くしている。

そんな仲の彼の家で、テスト勉強中。
この時期、2月はそろそろ学年末テストが、迫ってきているのである。
その為、学年でも頭の良いセンラに勉強を教えてもらう、という体で勉強会を開いている。

しかし、私はとあることを思い出してセンラに叫んだ。
『ホンマに何、うるさいわ鼓膜破れてまうわ』

『いや私そんなにうるさくないよな!?』

『おまえが思ってる10倍はうるさい』

『ねえセンラまでええええええ!!』

『ホンマにうるさい!!』
しかし茶番がどうしても入り、肝心の言いたいことが言えない始末。
まぁ恐らくこれは、私が悪いんだろうけど。

突然冷静になって、彼に向き直ってみる。
すると突然形相を変えて、引き気味に私を見た。
そんなセンラにとあることを報告した。
『あのですね、私の彼氏、浮気してたんですよ』

『へー…………ん?え、うわき?うわき…浮気ぃ!?!?!?』
相変わらずオーバーリアクションで、時差のあるセンラにクスッと笑みを漏らした。
しかし、私はそれどころではない。
長年…という程でもないが、2年ほど付き合っていた彼氏がついに浮気をした。
その決定的な現場を私は見てしまった。

それは、"ほかの女子生徒と一緒に手を繋いで帰っているところ"だった。

この2年間、ずっとずっと私一筋だった彼。
浮気の心配なんて、一生しなくていいくらいだ、なんて1年前は思ってた。
しかしこの有様。
ぶっちゃけ言うと、それらしき行動はしていた。
甘々でベタベタ甘えてくる彼が、最近素っ気なくなっていた。
倦怠期かな、とか必死に現実から目を背けていると、この間現実を目の当たりにしたわけだ。
『え、マジなん…?』

『なにそんな深刻そうな顔してんねん‪w、てかマジやわここで嘘つかんわ‪w‪w‪w』
ヘラヘラと笑っている私とは裏腹に、センラは眉間にシワを寄せていた。
何かを考えているような顔だった。
それより、浮気された本人より第三者の方が辛そうな顔をするのは何故か。
センラだからかな、という答えが出た私は末期であろう。

しょーもない考えが脳内を巡っているところに、センラが疑問を投げかけてきた。
『え、別れよって言われたん?』

『はっきりとは言われてないけど、私的にはそう聞こえたセリフはあったなぁ…』

『え、どんなん』

『小声やってんけど、俺たちもそろそろやなって言ってたはず…』

『はあああああああ?何言うとんねんアイツ俺のあなたを傷つけやがってよざけんなほんまに』
なんて、私の腕を強引に引いて軽く抱きしめるセンラ。
小さな頃からハグ魔だったセンラ。
ここ数年は、私に彼氏が出来たからされることは少なくなったけど、久しぶりにされた。
もう高校生にもなった今では、少し恥じらいがあった。

暫くそのままで居たが、センラが中々離さないから私から離れようとすると、より力が籠った。
『ちょ、センラ?どうした』

『やっぱあなたは俺と一緒にいるんやもん…』
意味不明なことを言っているセンラの言葉を理解するのに、数秒かかった。
つまりそれは…?
意味を聞こうと、聞き返そうとするとセンラから口を開いた。
『言ってなかったけどさ、俺、あなたのこと好きなんよ』

『…………え、は、?』
そう言ったあと、私を離して少し目を逸らされた。
不思議に思ったが、どこかセンラの表情が切なく曇って見えたから、何も言わないことにした。
センラから言葉を放つのを待っていると、私に気付いて話してくれた。
『あなたがアイツと付き合ったって聞いて、素直に喜べんかった』

『ずっと…あなたが好きやったから、』

『でもさ、勇気なくて告れへんかってん、ずっと』

『そしたら先に他のやつにとられてて、しかもあなた凄い嬉しそうやったから』

『だからめっちゃ我慢してた』

『でも今浮気されたって聞いて、どこかホッとしてもうた…ホンマにそれはごめん…』

『やっぱあなたは俺といて欲しいって、俺を見てて欲しいって、思っちゃって』
黙って聞いているから、センラの声が鮮明に聞こえる。
一生懸命に想いを伝えてくれているセンラの声色は、徐々に鼻声になってきた。
時々鼻を啜る音が聞こえるため、涙を堪えているのだろう。
それを悟られたくないのか、顔は伏せていてあまり見えない。

私はそんなセンラを静かに抱きしめた。
慰めたいから、楽にして欲しいから、などではなく、ただ本能的に。

するとセンラは私をこれでもかと言うくらいに、強く抱き締めてきた。
そのくらい不安でたまらなかったのだろう。
『あのねセンラ、私あの人と付き合ってる』

『確定じゃないけど、でも浮気現場を見て、気持ちがこれでもかってくらいに冷めた』

『だから、捨てられたって思った時、センラに無性に会いたくなってん』

『つ、つまり…?』
涙目で上目遣いで私を見つめる綺麗な瞳。
そんな彼を少しだけ見つめて、敢えて耳もとで囁いた。
『センラが好きだよ』











『コーヒーはミルクへ変わる_センラ』

Fin________

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