第116話

mh * 終電 ③
5,146
2022/06/22 12:00








靴を脱いでスタスタとこちらに向かう手には


黒いビニール袋を手に持っている。








mh
mh
おはようございますㅎㅎ










目の前にしゃがんで


顔を覗きこまれながら優しく微笑みかけられると





昨日から一緒にいるはずなのに



彼の顔をこんなにマジマジと見るのが初めてだった。










u
お、おはようございます













切長の目が微笑むと更に細くなって






カーテンをまだ開けてないのに


彼の笑顔は暖かく照らされているように見えた。















u
あっ、そうだ

u
これ、
ありがとうございました









ガーディガンを脱いで畳もうとすると


優しい声が聞こえる。













mh
mh
いえ、
寒くないですか?
mh
mh
まだ朝晩は冷えるので
いやじゃなければ着ててください


u
じゃあ...













この人は笑顔もだけど



心も暖かい。













1人でいるときよりも



彼といるこの空間は心が落ち着く。

















お礼を言って


借りたガーディガンに袖を通すと



ふふってまた微笑んだ。
















mh
mh
コーヒー淹れてきますㅎㅎ











出しっぱなしだった


スケッチブックを片付けてキッチンに向かうと








すぐに漂う


コーヒーの匂い。










両膝を抱えて座ると


膝を抱えた腕から僅かに香る




自分と違う洗剤の匂い。

















mh
mh
はい、どうぞ


u
すみません
ありがとうございます







差し出されたコーヒー



mh
mh
あと、これもよければ




帰ってきた時に持っていたビニール袋からは


スコーンが出てきた。






u
こんなものまで...
色々とすみません;










一口齧ると


ふふってまた微笑んだ。







食べてる姿をこんなに見られるのは


気恥ずかしいものだ、、、、











mh
mh
今日は仕事休みですか?


u
はい、休みです
u
あ、すみません;
食べたらすぐ帰りますね












彼との居心地がよくて


座ったところがお尻がくっついたように





自ら立ち上がろうとしない。


















mh
mh
あ、いえ;;
そういうつもりで
言ったわけじゃないので
ゆっくりしていってどうぞㅎㅎ

u
なんか...すみません、










長居をするつもりではないけど


そう言ってくれてほっとしたㅎㅎ













mh
mh
ㅎㅎㅎ
u
??
u
どうしたんですか?



mh
mh
なんだか僕謝られてばっかですねㅎㅎ

u
え?
mh
mh
悪い事してる訳じゃないんだから
"すみません"じゃなくて
"ありがとう"がいいですㅎ



u
あ、、、すみません...
mh
mh
ほらㅋㅋㅋ
u
あ... ㅎㅎ






mh
mh
こういう時はなんて言うんでしたっけ?








首を傾げて

僅かに上がる口角は




少し私を揶揄っているように見える。











u
ありがとうございます....








mh
mh
よくできましたㅎㅎㅎ












揶揄われたはずなのに











目を細めて微笑む彼を見ると



心が暖かくなる















この人といたら

この穏やかない気持ちが



ずっと続いてくれるかな、、、






















なんて



初対面の人にこんな気持ちを抱く私は


どうかしているのだろうか。














どうかしている










いや、


どうかしていたからここに来れたんだ。
















・・・・・・・・・・・・





・・・・・・




・・・

















mh
mh
降りるの次ですか?
u
はい、次の駅で降ります










食べ物とコーヒーをご馳走様になって、

食べ終わって帰ると言ったら



" 僕も出かける用事があるので "



って言われて一緒に彼の家を出た。













ちゃんと私が家に帰るか

見張られてるんだろうなㅎㅎ











この人はどこまで

善意の塊で作られているんだろう







そう見上げると彼と目が合って

ニコって微笑まれた。






















mh
mh
どうかしました?



u
あ、いえ..その...




試しにどこまで行くのか聞いてみようかな、、、








『 まもなく〇〇駅、〇〇駅に到着します 』










u
(あっ、、、)








そんな矢先にアナウンスが流れた。













聞かなくてよかったんだと

言い聞かせるようなタイミング。










バッグを肩にかけ直しながら



そういう事だと思うようにしよう。















私はたぶん彼に何か期待しているものがある
















mh
mh
あのっ、







電車のスピードが緩んで停車に向けている。

















mh
mh
来週の金曜日、
よければまた会いませんか?
mh
mh
終電の時間に改札口で待ってるんで











まさか、、、、








u
行きます!














彼とまた会いたいと





自分で気づかない振りをして

きっと願っていたんだろう。














来週の金曜日





その日が来るのが待ち遠しい



























そう思っていたはずなのに


















木曜日の深夜1時

















限界を迎えた私は同じ事を繰り返した。
















この前と違うのは


向かう方向を把握している事。












そのせいもあって歩くスピードは迷う事なく進む















 
それなのにある場所で足が止まった。














何か起こる事を期待しているはずないのに


なぜか止まった。













人も通らないこの場所は


ただ波の音が遠くから聞こえる。












深い溜め息をついて











無機質でカンカンとなる音が聞こえて




顔を向けると





























mh
mh
、、、あれ?















階段から降りてきた彼がいた。









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