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第1話

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2021/01/08 22:46
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「おーい、このプリント持ってってくれないかー?」



友達と一緒に帰ろうとしていた時。
先生にそう呼び止められた。



「え、私たちですか?」

友達がそう先生に聞き返す。




「おー、私たちだぞー」

「まじか〜。どうする、あなた」

そう言って、友達は私の顔を覗き込む。




「んー、どーせする事ないし、持っていこっか」


「だってよー、せんせー」


「お前は何様だ?笑
おー。ありがとな」


そう言って、先生は笑いながら教室を出る。


プリントを持っていこうと席を立って。
なんとなく時計を見て、気づいた。


「あ、ねえ、塾の時間大丈夫?」




時刻はもう5時半。
お喋りをしていたら、意外と時間が経ってしまっていたようで。


「わああっ!ほんとだ!あ、でもプリント……」

時計を見て慌てる友達を見て、あはは、と笑って。




「いいよ、だいじょーぶ。
私持っていくから笑」


「ありがとー!あなた天使!」

「あはは、ありがとー笑」




教室を出ていく友達を見送って、教卓に置いてあるプリントを見て、

「えっ」

と声を出してしまった。




明らかに、私一人では持てない量だったから。





まぁ、頑張れば、いける、よね?



そう思いなおして、プリントを持ち上げる。

思った以上の重量。



ふらふらしながら教室を出ようと、扉に近づいた時。


がらがらがらっ、と音を立てて扉が開いて。

「……わっ!」



驚いた私は、ばさばさばさっ、と音を立ててプリントを落としてしまった。



すぐにしゃがんで、プリントを拾おうとして。

「ごめん、大丈夫?」



もう一人の手が、落ちたプリントを拾い上げて。



顔を上げると、そこには知らない男の人が立っていた。


先輩、だろうか。
ジャージを着ているから、運動部だろう。

「ごめんね、俺がいきなり開けちゃったから」


そう言って、申し訳なさそうに私に笑いかける。





なんでだろう、別に男の人が苦手っていう訳でもないのに。



顔が熱くなる。



どうしたんだろう、私。



「や、大丈夫です」


止まっていた手を動かして、プリント拾いを再開する。



*




「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」


プリントを全て集め終わって。

またプリントを全部持とうとした時、
プリントの3分の2程を取り上げられる。


「え、」

「こんな量1人で持てないでしょ笑」


笑いながら、先輩は軽々とプリントを持つ。



「ありがとうございます…」



私、ありがとうございますしか言ってないんじゃないか。


二人で一緒に教室を出る。



「これ、どこ持ってくの?」

「あ、資料室です」


「結構遠いね笑
1人で持っていこうとしてたの?」


「あはは、友達が用事あって笑」

「大変だね笑」




それきり、また話題がなくなって。


どうしよう、何か話した方がいいのかな。
何話そう、
なんて言おう……。


そうやって、ぐるぐる考えているうちに。


「ねえ、君ってあなたちゃんだよね」

先輩から話しかけてくれた。



しかも、私の名前……。


「え、なんで………」



びっくりして先輩を見つめると、

「あはは、やっぱそうだった。
いや、なんか結構有名なんだよ。
美少女入学してきたーって笑」


美少女?

誰が?






私が!?




「や、まさか、そんな」

「そのまさかだよ笑」




まさか、そんなことを言われていたなんて。

どうにも信じられなくて。




えー、と呟く。



「あはは、そんな信じらんないんだ笑」

「だって、そんな事知りませんでしたし…笑」




「僕は菅原孝支。3年生だよ」



やっぱり、先輩だったみたいだ。

しかもふたつも上。



「よろしくね、あなたちゃん」



そう言って微笑んだ先輩の笑顔は、どんな人より魅力的で。



「……よろしくお願いします、菅原先輩」


資料室に着いてしまったのが、少し寂しかった。

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