*
*
「ありがとうございました!」
もうすっかり暗くなった頃。
バレー部の練習が終わって。
皆が更衣室に移動する中、私はどうしたらいいのか、うろうろしてしまう。
………待っていた方がいいのかな、
それも変?
先に帰るものなの?
そんな感じで困っていると、
更衣室に移動しようとしていた菅原先輩が私に話しかけてくれた。
「あなたちゃん、ちょっと待っててもらえるかな。
もう暗いし、送るよ」
「え、や、そんな……悪いです」
「いーのいーの。俺が誘ったんだし」
そう言って、先輩は更衣室に入っていく。
………送ってもらうなんて、初めて。
胸がドキドキと高鳴っていた。
*
「あなたちゃん、ごめんね、待たせて」
そう言って、制服に着替えた菅原先輩が私に手を振る。
「あ、いえ、全然……」
「じゃあ、行こっか」
そう言って、先輩が歩き出す。
菅原先輩と歩く帰り道は、何だかいつもと違って見えて。
余計に緊張してしまう。
……どうしよう、何話そう。
「あの、先輩」
「ん?」
とりあえず話しかけてしまった。
えっと………。
「………バレー部、楽しそうですね」
なんて、当たり障りのないことを言ってしまう。
それを聞いた先輩は少し笑って、
「良かったらさ、また見においでよ」
ずるいなぁ、その笑顔は。
こくんと頷いて、それきりまた会話は途絶える。
ピロリン。
私のスマホがメールを受信した。
急いでスマホを確認すると、潔子先輩からだった。
『今日はありがとう、仕事手伝ってくれて。
良かったらまた遊びに来てね』
菅原先輩の着替えが終わるのを待っている間、私は清子先輩とLINEを交換していた。
先輩との初LINEに少し頬を緩ませていると。
「清水さんから?」
そう言って、菅原先輩が私のスマホを覗き込む。
いきなりの接近に、心臓が跳ね上がる。
「へー、LINE交換したんだ」
……声がどこか不機嫌そうなのは気の所為?
「先輩を、待ってる時に」
そう答えると、先輩は
「じゃあさ」
と言ってスマホを取りだす。
「俺とも交換してよ」
「へ」
予想外の提案に間抜けな声が出てしまう。
「だめ?」
そう言って、私の顔を覗き込むように見てくる。
途端に顔が赤くなって。
「だめじゃ、ないです」
そういうのが精一杯で。
「やった!」
そう言って笑う先輩の顔が、当分頭から離れなさそうだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。