第11話

魔窟と魔性の女
???
私も悪魔になりたいなぁ!
アザゼル
アザゼル
何故だ?
???
悪魔になったら貴方の様に永い時を生きる事が出来るもの!
アザゼル
アザゼル
意外だな……不老不死がお望みか?
???
ハズレ!
私は人間だから必ず貴方より先に死ぬわ……悲しむ貴方を遺して逝かねばならないのは、私にとっても苦しいことなの
アザゼル
アザゼル
…………
???
そんな悲しい顔はしないで……そうだ!共に永遠を生きれないのなら、私が何度も生まれ変われば良いのよね!
アザゼル
アザゼル
……何度も?
???
そう、何度だって!
貴方が『もう勘弁してくれ』と懇願したって、私は何度だって貴方の傍に生まれ変わるわ!
アザゼル
アザゼル
それは凄まじい執念だ
???
執念じゃなくて【愛】と呼んで頂戴!
そして……その時は必ず私を見つけてね、アザゼル
アザゼル
アザゼル
ああ、わかった……例えキミがどんな姿であろうと、私は必ずキミの魂魄を見つけてみせるよ
???
約束よ、アザゼル
――なのに私はまだ、彼女を見付けられない。

果たせぬ約束などするべきではなかったのだ。

*****
ゼル
ゼル
……っ!
目を覚ませば、見慣れた天井。
今日も蜘蛛が一晩掛けて立派な巣を作り上げている。
ゼル
ゼル
……夢、か
酷く懐かしく、そして朧げな夢を見てしまったものだ。

あまりにも遠過ぎる過去の記憶は砂の城。
強く手繰り寄せた所でさらさらと儚く崩れ落ちて行く。

何とも後味の悪い寝起きだ。
ゼル
ゼル
(こんな時は早々に顔でも洗って、スッキリと――)
身体を起こそうとした所で、私の動きが止まる。
二本の腕が私の胴体をガッチリとホールドしているからだ。
ゼル
ゼル
(またか)
唯一自由の効く右手で毛布を捲ると、その下からふわふわモコモコの毛玉が現れる。
信じられないかも知れないが、この毛玉はこれでも人間の頭なのだ。

その毛玉を、まるで【むく犬】でも撫でるが如く乱雑に掻き回すのが最近の私の習慣になりつつある。
ゼル
ゼル
(近頃の夢見の悪さは、コイツに圧迫されている所為ではなかろうか)
【愛情表現】と呼ぶには程遠い乱暴さで撫でること、暫し。

やっとこの毛玉――否、羊頭こと【シスターマリア】は目覚めの時を迎える。
マリア
マリア
むにゃ……もう食べれませんので……
ゼル
ゼル
ベタ過ぎる寝惚けだな!
マリア
マリア
残りはゼルくんに差し上げます……むにゃむにゃ
ゼル
ゼル
残飯を俺に押し付けるな……というか、いい加減起きろ!
天然癖毛も甚だしい頭に寝癖が加わり更にボリュームアップした頭を、私は平手ではたく。
(勿論、力の加減はしている)

すると羊頭は眉間にシワを寄せつつ、寝惚け眼で私を見上げた。
マリア
マリア
……痛いじゃないですか、もっとソフトに起こせないんですか?この目覚まし時計は!
ゼル
ゼル
人を時計呼ばわりするな!
というか、また人の寝床に潜り込んで寝たな!?
マリア
マリア
だって最近、夜は冷え込むんですよ……私にだって毛布を被って寝る権利くらいあると思うんですが!
ゼル
ゼル
だから『もうひとつベッドを置かないか?』と常々進言しているだろ
マリア
マリア
ゼルくんは簡単に言いますけどね、うちにはベッドを買うお金がないんですよ!?
ゼル
ゼル
金ならどうとでもなるから、心配するな
マリア
マリア
それに置き場もありません!
本が散乱しまさに【足の踏み場もない状態】な室内を指さし、羊頭は何故か胸を張る。
マリア
マリア
ねっ!?
ゼル
ゼル
『ねっ』じゃない!
置き場がないなら作れ!つまり掃除をしろ!
マリア
マリア
掃除ならしてますよ!
なのに朝起きたらこの状態……もしやこの教会に住むゴーストが夜な夜な悪さをしているのでは!?
ゼル
ゼル
俺の記憶の限りだと、昨夜……いや、それ以前からこの状態だったが?
マリア
マリア
ぐぬぬ、ゴーストめぇ……!
羊頭は居もしないゴーストに責任転嫁すると、悔し気に歯軋りをして見せる。

……恐らくこの杜撰な性格を矯正しない限り、深刻な汚部屋問題は解決しないだろう。
ゼル
ゼル
もうお前の【掃除やるやる詐欺】には期待しない……その代わりに俺専用の部屋をひとつくれ。
この部屋以外にも空き部屋くらいあるだろう?
マリア
マリア
何を言っているんですか!
人が住めるお部屋なんて此処くらいしかありませんよ!?
ゼル
ゼル
人が住める部屋じゃないから、別の部屋を所望しているんだ
マリア
マリア
とにかくこの部屋以外はダメ!
この部屋が私とゼルくんの家族・・愛の巣なんですー!
ゼル
ゼル
愛の巣?蜘蛛の巣の間違いだろ??
マリア
マリア
ゼルくんが神経質過ぎるんですよ!潔癖症ですか!
蜘蛛と同居する優しさもないのですか!?
ゼル
ゼル
例え潔癖と言われようが、俺は蜘蛛やネズミと寝食を共にしたくない
マリア
マリア
差別はいけません!
人も蜘蛛もネズミも、みんなこの地上で生まれた仲間ですよ!?
ゼル
ゼル
生憎俺は地上生まれではない……故に差別・区別はさせてもらう
朝からこの様な軽口を叩き合い、傍から見れば仲の良い【姉弟】くらいには見えるかも知れない。
しかし実際、私は彼女より遥かに年上であり――人間ではない。
私は【悪魔アザゼル】なのだ。
無論、血縁関係などあるはずもない。

種別といい、性格といい。
何から何まで相容れない私たちが、どんな因果か廃墟の如き教会で生活を共にしている。


というか。
何を血迷っているのかこの羊頭、己のシスターという立場を忘れて悪魔である私の世話を(多分)甲斐甲斐しく焼いている。
そして更に血迷っているのが、この私。

天衣無縫を突き抜けた羊頭のマイペースっぷりに巻き込まれるうち、あろうことか情が芽生えてしまったのだ。
認めたくはないが、認めざるを得ない――悪魔が羊に心を喰われたという事実。

そして私は諸々の事情込みで、こうして羊頭との同居生活を続けている。
――が。

その同居生活が順風満帆満足出来るものかと聞かれれば、【否】と答えるだろう。
私にとってこの教会丸ごとが不可解であり、不審な存在なのである。
そしてその丸ごとの中には羊頭の存在も含まれている。

例え情があったとしても、それとこれとは話が別だ。

何故、私は此処に居るのか。
何故、シスターが私を匿うのか。
何故、悪魔である私が教会で生活出来ているのか。

まるで誰かの思惑に踊らされているかの様な状況に、不信感は否めない。

故に私は知り、理解しなければいけないのだ。
教会のことも、彼女のことも。
マリア
マリア
ゼルくん?
ゼル
ゼル
ん?
マリア
マリア
どうしました?寝不足ですか??
ゼル
ゼル
睡眠時間は充分とっている
そういえば、ひとつだけ理解していることがある。
それは――
マリア
マリア
では、今夜こそ【御本の読み聞かせ】をしてもいいですか!?
おすすめのものがあるんですよね!
ゼル
ゼル
それは断る
マリア
マリア
えー、何でですか!?
羊頭にとって私は【悪魔】とも【異性】とも認識されていない、ということだ。