足に意識を持たせて逃げないよう構える。
どんどん近寄ってくる山田くんはもう目の前。
顔なんてスレスレで、それを分かってて
山田くんは触れそうで触れない距離を
わざとキープしている。
····そろそろ、もう限界、そう思った時、
山田くんからの問いに答えを必死に探す。
こんな答え方で良かったのか...
考えればもっと頭のいい答え方は
あったはずだ。
でも·····
笑った後に吹き抜ける、その悲しそうな真顔。
もうそんな顔、して欲しくないのに...。
すっと顔から離れた山田くんは
まるで全部を悟るかのよう。
空気に溶け込むように...でも彼の発する
声は私の脳裏に鮮明に焼き付くわけで。
情けない事にそれをちゃんと答えてあげられない。
モヤッと晴れない気持ちは一向に
消えないままだ。
なんて声を掛ければいいのか生憎だが
気の利く一言も言えない私····。
本当にどうしようもない。
彼の頬はぎこちなく釣り上がる。
正直に、と言ったって、自分の気持ちよりも
山田くんを気にかけてしまう。
何もいいと返事は返せない癖に、
わたしは本当に都合がいい。
だけどそれでも彼に返せる言葉を探す。
こんな私に何年も想いを寄せてくれた事に
まさか何も感じないなんて、
私はそこまで冷淡な人間ではない。
また彼に呆れてしまうのか...
怒られてしまうのか...
イラつかせてしまうのか。
彼の次のリアクションに自分は身構える。
けれど、
彼は私に背を向けたままだった。
無責任な事はいくらでも言える。
その分、彼を苦しめる事にはなるけれど、
·····でも、ちゃんと伝えなきゃ。
今後どういう方向に進んだにしても、
きっと気持ちが晴れる事はないだろう。
だからこそ、同じ失敗はもうしない。
色んなことを理由にして、人の気持ちと
向き合わないなんて...もう卒業だ。
彼の体はこちらに背を向けたままだ。
でも、ちゃんと聞く耳を持っているのは
何となくその雰囲気から伝わった。
だから、思いっ切りぶつかる。
思いっ切り伝える。
ずっとずっと顔を上げようとしない
彼は、地面にその表情を向けたまま。
懸命に何かを隠しているように見えて···
私はそれに対して、懸命に気づかない振りをした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。