第43話

わたしの想い
1,036
2018/08/19 18:41


足に意識を持たせて逃げないよう構える。



どんどん近寄ってくる山田くんはもう目の前。




顔なんてスレスレで、それを分かってて
山田くんは触れそうで触れない距離を
わざとキープしている。




····そろそろ、もう限界、そう思った時、

涼介
俺だと不満?


山田くんからの問いに答えを必死に探す。

あなた
不満じゃないけど...満足もしない


こんな答え方で良かったのか...
考えればもっと頭のいい答え方は
あったはずだ。




でも·····

涼介
満足しないのか····そっか····


笑った後に吹き抜ける、その悲しそうな真顔。
もうそんな顔、して欲しくないのに...。




すっと顔から離れた山田くんは

涼介
俺が何しても····もう今更なんだろ?


まるで全部を悟るかのよう。




空気に溶け込むように...でも彼の発する
声は私の脳裏に鮮明に焼き付くわけで。




情けない事にそれをちゃんと答えてあげられない。




モヤッと晴れない気持ちは一向に
消えないままだ。




なんて声を掛ければいいのか生憎だが
気の利く一言も言えない私····。




本当にどうしようもない。

涼介
なんも嬉しくねぇだろ、俺なんかに
こんな好き好き言われたって


彼の頬はぎこちなく釣り上がる。




正直に、と言ったって、自分の気持ちよりも
山田くんを気にかけてしまう。




何もいいと返事は返せない癖に、
わたしは本当に都合がいい。




だけどそれでも彼に返せる言葉を探す。




こんな私に何年も想いを寄せてくれた事に
まさか何も感じないなんて、
私はそこまで冷淡な人間ではない。

あなた
嬉しくない事はないよ····ありがとう


また彼に呆れてしまうのか...

怒られてしまうのか...

イラつかせてしまうのか。




彼の次のリアクションに自分は身構える。




けれど、

涼介
なんだよそれっ···すげぇ腹立つわ


彼は私に背を向けたままだった。



無責任な事はいくらでも言える。




その分、彼を苦しめる事にはなるけれど、
·····でも、ちゃんと伝えなきゃ。




今後どういう方向に進んだにしても、
きっと気持ちが晴れる事はないだろう。




だからこそ、同じ失敗はもうしない。




色んなことを理由にして、人の気持ちと
向き合わないなんて...もう卒業だ。


あなた
·····山田くん


彼の体はこちらに背を向けたままだ。




でも、ちゃんと聞く耳を持っているのは
何となくその雰囲気から伝わった。




だから、思いっ切りぶつかる。



思いっ切り伝える。

あなた
私、本当に嬉しかったよ!···でも、好きになれなかった···でもそれは、山田くんに興味がなかったからじゃないのっ···
魅力的な山田くんと同じくらい···
今の私には素敵に見える人がいます


ずっとずっと顔を上げようとしない
彼は、地面にその表情を向けたまま。




懸命に何かを隠しているように見えて···



私はそれに対して、懸命に気づかない振りをした。

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