こんな事、あんまりだと思う。
だけど気を使って余計彼の気持ちを
踏みにじるより、悲しませるより、
私は遥かにいいと思ったのだ。
うん、大丈夫だ。
きっと····いや、絶対に?
認めてもらうとか、納得してもらうとか、
そういう理解なんて必要ない。
ただ私は彼に知ってもらいたかっただけなのだ。
知ったからどうこうはないけれど、
ただただ、今の私のことをちゃんと
自分から伝えてちゃんと知ってて貰いたい。
そう思っただけなのだ。
そう言われたけど、大人しくそれに
従うほど私はお利口ではない。
それに従ったからといって、
何も優しさは生まれないし。
彼の傷は癒えることも古傷になることもない。
だから私は背く。
自分にも厳しくいきたいのだ。
私がそう言いかけると、背を向けていた
彼は一瞬にしてこちらに体を戻した。
強ばった彼の表情、山田くん、ごめん。
私は心に決めて言葉にしたのだ。
本心じゃないのに伝えることに
ひたすら想いを込めて...
チラチラ視点を変えては
落ち着きのない山田くん。
分かり切っていた事を、いざ本人の口から聞くと、
人ってどうしようもなく動揺するのかもしれない。
私は、そんな彼を見たかったわけじゃない。
そんな彼を望んでいたわけじゃない。
だけど今の私には...
山田くんを幸せにはできない····っ。
前に進んでほしい····そんな事、
偉そうに思っちゃうんだ。
再び近づいてくる彼に思考は
停止してしまう。
理由を聞く前に、確かに距離を
縮めてくる山田くん。
山田くんの唇に、枯れた想いは全てのっかる。
...それが自分の唇と離れたのは
今日が最初で最後だろう。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。