第42話

好きになった理由
1,039
2018/08/19 18:18
涼介
夜の公園ってさ····思い出すんだよな


何かを思い出しながら喋っているのか、
山田くんはジャングルジムの上に登ると
てっぺんから私を見上げた。

涼介
知らねぇだろ?
あなた
え?


山田くんは今までにない柔らかさを
持って、クスッと笑った。

涼介
俺があなたに惚れたの、ここなんだよ
あなた
えっ


思わぬ言葉に色々と疑問が消えない。




教室で見かける程度の距離感なだけで、
彼と関わりを持つのは最低限でも
学校だけだと思っていた。




まさか、学校以外で見かけられていたなんて...

涼介
理由、知りたい?


急にジャングルジムのてっぺんから
飛び降りてきた彼。

あなた
え?えと、····うん、まぁ


私の返事を待っているからそれに戸惑う。

涼介
安心しろ、期待するような
エピソードじゃねぇから


私を馬鹿にしてるのかそんな風に貶してくる。
安心しろ、という言葉が絡み合っていない。




山田くんは私をどうしたいのか、謎が謎を呼ぶ。

涼介
俺さ、親が共働きだから夜の7時まで
家にいても人いなくてさ


そんな他人の諸事情、仲が良くないと
知ることなんて一生なかったはずだ。

涼介
弟は近所に預けられてるし、俺だけ
暇だから、よくここで時間潰してて


一人で複数の方向に進めば、その先に
ぶつかる遊具に触れて話を続けた。

涼介
ジャングルジムの上に乗ってるとさ


彼はブランコに腰掛けると、ジャングルジムの
てっぺんを見ながら答えた。

涼介
よく見えんだよ、誰かさんがジャージ姿にメガネでコンビニから帰ってくるのが
あなた
は!?


私を見ながらクスクス笑うから
もう嫌でも自覚するわけで...

涼介
人見てなくて歩きながらアイス
美味そうに食ってたし


遥か昔の、遠い記憶を呼び起こすのには
色々なものが邪魔をする。

あなた
ねぇ待って···てことは全部
見られてたってこと?
涼介
うん


惚れた理由にロマンの欠片は少しもなかった。




即答する彼になんだか告白されて
勝手に振られた気分である。





こんな時でも自分の女子力の無さに気が引ける。



なんか常にナイフがこちらに向いている。



数年も前の事を掘り起こされて
絶望感が私を支配する。




いとも簡単に醜態を撒き散らしてしまった
中学時代の自分がとてつもなく憎い。

涼介
俺さ、学校じゃ小綺麗にしてんのに、
裏じゃズボラなお前を見るのが楽しかってさ


私は目の前に、ここにいるのに山田くんの
目に写っているのはいつも私なのか...

涼介
こんなこと知ってるの、俺だけだろ?
全部知り尽くしたかった···
自分のものにしたかった


過去を捨てるかのように···そんな言い方を
されると気づけなかった自分に重しがのる。

涼介
簡単に振られたけどっ


彼はとても意地悪だ。



わざと私を困らせて反応を楽しんでいる。

あなた
あの頃は、恋愛とか····疎くてさ


私の目から離してくれない...
君の瞳にはまだ何かを求めるような、
そんな感じだ。

涼介
大ちゃんと会うの?
あなた


どこか適当な一点を見つめて、君はボヤく。

涼介
今だったら奪えるかなぁって。
夜だし、人いない公園だし


チラッとこちらに目を移すから
ドキッと心臓が変な音を立てた。

あなた
ちょ·····怖いからやめて?
涼介
割と本気なんだけど?


ブランコから腰を離すと、ズカズカ
歩み寄ってくる山田くん。




今となっては、これが本気なのか、
ふざけて貶してるだけなのかすらも
分からない。




なんでか明確な理由は見つからなかったけど、
後退りしたら、何かを捻曲げてしまう気がしたのだ。

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