幸いハンドタオルを持ち合わせていた為、
私はそれを彼のところまで渡しに向かう。
大丈夫大丈夫って口では言うけど、
半袖の端っこを絞ると出てくるのはかなりの水。
有岡くんって意外と学習能力ないのかなぁって、
同じこと何回も繰り返すあたりがかなりバカっぽい。
だけど、それがなんだか愛おしいのだ。
他に何があるかと考えれば全く
浮かび上がって来ない。
その男の子の隣には、ちゃんと山田くんがいて
笑いながらばいばい、と手を振って
いった彼はかなり身勝手だ。
こんな状態にしといて、あとは自分で
なんとかしろと...本当に変な人に好かれたもんだ。
そして残された私と有岡くん...
さて、どうしたものか。
病み上がりなだけあって免疫力は
かなり低いと思う。
それを気にしてハンドタオルを
もう一度差し出した。
なのに、彼が掴んだのはハンドタオルじゃなくて...
私の腕だった。
彼の綺麗でスラッとした手に、
こんな不意に腕を掴まれるだなんて...
パッと手を離した彼は珍しく
眉間に皺を寄せていた。
山田くんがよくしていた表情...
有岡くんもこんな表情するんだ...って
呑気に見つめてしまった。
目が合わないことに不審になっていたら
彼はそれだけ言って更衣室へと
姿を消した。
時計に目をやればスイミングスクールも
バイトも終わる時間...
人が入っていないプールを見ると
何故か変な気持ちになる。
ゆらゆら静かに揺れる水面に、
私は吸い込まれそうだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。