第48話

彼からのお誘い
1,142
2018/08/21 15:02


幸いハンドタオルを持ち合わせていた為、
私はそれを彼のところまで渡しに向かう。
あなた
はいっ
大貴
え·····いやっいいって!!


大丈夫大丈夫って口では言うけど、
半袖の端っこを絞ると出てくるのはかなりの水。

あなた
ねぇまた風邪引くよ?この前も
プールに落ちて風邪引いたんでしょ?


有岡くんって意外と学習能力ないのかなぁって、
同じこと何回も繰り返すあたりがかなりバカっぽい。





だけど、それがなんだか愛おしいのだ。

大貴
風邪引いたのはプールのせいじゃねぇって
あなた
え?


他に何があるかと考えれば全く
浮かび上がって来ない。

男の子2
ありおかっ!兄ちゃん来たから
ばいばいっ
大貴
お、おう


その男の子の隣には、ちゃんと山田くんがいて

涼介
さっきぶりの面ばっかだなぁ笑
...あ、あなたは一昨日の夜ぶりか
あなた
·····ッ


笑いながらばいばい、と手を振って
いった彼はかなり身勝手だ。





こんな状態にしといて、あとは自分で
なんとかしろと...本当に変な人に好かれたもんだ。





そして残された私と有岡くん...
さて、どうしたものか。

大貴
やっぱり俺、また風邪引くかも
あなた
え、だから言ったでしょ?寒くない?


病み上がりなだけあって免疫力は
かなり低いと思う。




それを気にしてハンドタオルを
もう一度差し出した。

大貴
いや、そうじゃなくて...


なのに、彼が掴んだのはハンドタオルじゃなくて...

大貴
失恋、


私の腕だった。




彼の綺麗でスラッとした手に、
こんな不意に腕を掴まれるだなんて...
あなた
あ、有岡くん?
大貴
なーんつって


パッと手を離した彼は珍しく
眉間に皺を寄せていた。





山田くんがよくしていた表情...
有岡くんもこんな表情するんだ...って
呑気に見つめてしまった。

大貴
今日、すぐ帰る?
あなた
いや?いつもと一緒だけど...


目が合わないことに不審になっていたら
大貴
待ってて


彼はそれだけ言って更衣室へと
姿を消した。




時計に目をやればスイミングスクールも
バイトも終わる時間...





人が入っていないプールを見ると
何故か変な気持ちになる。




ゆらゆら静かに揺れる水面に、
私は吸い込まれそうだった。

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