梅雨はいつの間にか終わっていて、
一息つく暇もなく夏はやってきた。
家の窓際についた風鈴は一向に鳴らない。
そよ風のひとつも吹かないほど、
猛暑日なのである。
家でクーラーをガンガンにかけて
ソファにだらしない格好で横になる。
アイスを豪快に口の中に入れると、
何とも言えない幸福感。
蝉が永遠と泣き続ける昼間というのは
もう、ほんとに
学生にとって貴重な休日も、自然と色んなものに
邪魔されてくつろぎたくてもできやしない。
項垂れているとお母さんに分かりやすく
ため息をつかれた。
ソファで寝返りを打つと、お母さんはもう、呆れ顔。
最終的にはそれを言われて傷つく始末。
防御をしたつもりが、真正面から
攻撃を受けてしまった。
そう、私の周りはみんな彼氏持ち...
いったいどこで知り合うんだか
少しはその出会いとやらを私にも
分けて欲しいくらいだ。
母親ほど直接的に怖いものはない。
この歳になってもまだ思う。
翔ちゃんというのは私と10個ほど
歳の離れた可愛い弟のこと。
翔ちゃんは習い事で水泳をしていて、
その市民プールに迎えに行ってこいと、
たった今、お母さんにパシられたのだ。
外に出る服装に着替えて、財布とスマホだけ
手に持ち、私はチャイルドシート付きの
ママチャリに腰を掛けた。
暑い中、重いペダルをただひたすら漕ぎながら、
少し家から離れた市民プールへと距離を縮める。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!